猫鳴館、自治会長選任戦｜リアクション

猫鳴館、自治会長選任戦

●11時55分　管理本部前

　いよいよ、選任戦も残り５分。
　終了時刻１２時を前に、候補者たちが次々と回収した寮費を届けに来る。
　トップバッターは骨削瓢だ。
「今日の分を納めにきたよぃ」
「ご苦労だった。骨削、現時点で２１,６００円」

　次にやってきたのは、雪見大福。
「海原先輩、……どうですか」
「まだ結果はわからない。雪見、現時点で２４,３００円」

　次は後木真央だった。
「シゲちゃんセンパーイ！　とりあえず集金ご報告なのだ！」
「後木は元気だな」
「真央ちゃん、これは猫鳴館的お祭り騒ぎだと思っているのだ！　楽しまなくちゃ損なのだ！　それに、選任戦が猫鳴館建て直し計画について寮生みんなが考えるきっかけになればうれしいのだ！」
「そうだな」
「ところであの……自分の分の払込みは票に数えちゃダメなのだ？」
「構わないぞ。君も寮生のひとりだからな」
「そ、そういわれればそうなのだー。あうー、でも真央ちゃん、いまお財布にちょっとしかなくて、１ヶ月分９００円しか払えないのだー」
「とりあえず払っておけばいいだろう。ああ、それと。これは俺の票だ」
　真央は、茂から、１ヶ月分９００円を受け取った。
「ま、真央ちゃんになのか？　シゲちゃんセンパイ、ありがとうなのだ～～！！」
　茂は真央のフライング抱きつきを受け、目を白黒させた。
「う、後木、現時点で８,１００円」

　次は邪衣士だった。
「まずは、今日の分。それから……先ほどの後木とのやりとり、見ていた。やはり自分に投票できるんだな。立候補者が払えない道理はないと思っていたんだ。自分に払える可能性について伏せておいて正解だったな。……では自分に５４００円を入れよう」
「了解だ。ちなみに、黒須聖からの５４００円も預かっている。君のこれまでの合計２０７００円に、君と黒須の分１０８００円を足して、……邪衣、現時点で３１,５００円」

　最後にやってきたのは逆巻天野だ。
「僕は――候補者を辞退させてもらう」
　これまで、限られた仲間にだけ知らせていたその決意を、とうとう天野は明らかにした。
　管理本部に動揺が走る。
「逆巻、本気か？」
「本気だよ。……そもそも最初から、会長に興味はなかった。僕が寮に出来ることを、僕らしくやりたかっただけなんだ。そして、僕はそれをやり遂げたと思う」
　ふっ、と天野は強気な笑みを浮かべる。
「回収金については、無効票にしてもらおうと思っていたんだけれど。それぞれ想いがあるようなので、それを伝えさせていただくよ。まず、本宮の票だけど、僕が辞退するなら邪衣に、ということだった」
「わかった。逆巻から邪衣に５４００円、票を移す」
「それから、怪盗ケットシーは、僕じゃなければ初島に会長になって欲しいそうだから、初島に入れてやってほしいな」
「初島か。なるほど、たしかに彼はいろいろ頑張ってくれているな。……ちょっと考えさせてくれ」
　天野は満足げに肯く。
「最後に。僕にも投票権があるんだね。なら、雪見に９００円投票しよう」
「……まったく。本当に君は謎な奴だ」
「謎で結構だよ。――ふふ、ああ、これですっきりした」
　天野はうーん、と気持ちよく伸びをする。
「さあ。あとはパーティだね。気楽に、手伝ってくれた仲間たちと打ち上げをしよう。御剣と如月に巨大ステーキを奢って借りを返したら僕は休むよ」
　天野の口の端に、この２４時間ではじめて、穏やかな笑みが浮かんだ。

　天野の辞退の結果を受け、各候補者の票はこのようになった。

　邪衣士氏………３６９００円　
　雪見大福氏……２５２００円
　骨削瓢氏………２１６００円
　後木真央氏………８１００円
　逆巻天野氏………………辞退

「第三者的立場から見て不正がないか調べよう」と、学生支援部の添木千唐が監査役に名乗りを上げた。
　茂は、千唐に、最終的な集計と監査を任せることにした。
「最終結果は、午後のキャベツ叩き売りのあとになる。その分の集計も頼めるか」
「任せろよ」

　時計が、日曜日正午を告げる。
「――選任戦、終了！　さあ、パーティのはじまりだ！」