供物　～らっかみさんらっかみさんお越しください！～｜リアクション

供物　～らっかみさんらっかみさんお越しください！～

◆試食会を終えて……

　アリシアのシチューの次。最後の最後に出されたのは御鏡聖のサンドイッチ。
　……しかし残念ながら、サンドイッチもアンディの思い出の料理ではなかった。
　彼女の料理も他の人の料理もアンディは美味しい美味しいと食べてはいたが、聖は残念に思わずにはいられなかった。
　けれど、残念がってばかりもいられない。
「……これでどうだろう？」
　聖が顔を上げると、ちょうど新たな試作品が仕上がったところだった。
　その試作品はアリシアの作ったパンに、カレーを入れてみるというもの。
　出来立てをアンディに差し出し、皆で行方を見守った。
　アンディも緊張した面持ちでパンカレーを口に運ぶ。
　そして頬張ったそのとき――アンディの目からつるりと一粒の涙が零れ落ちた。　
「コレ……コレ、ダヨ」
　そう呟くと、アンディは我も忘れてパンカレーを食べ続ける。
　名前も、味も、形もぼんやりと思い出せなかった思い出の料理に、ようやく彼は再会した。
「コレ、『バニーチャウ』。ママン、得意料理。大好キ、ラブ、アリガトウ、ゴザイマス」
　ボロボロとこぼれ落ちる涙でパンを濡らしながらも、アンディはパンカレーを見事に完食した。
「……コレデ、ワタシ、帰ル、デキル」
　アンディが口を拭うと、樋口弥生先生の身体が崩れ落ちる。

　間一髪のところで先生の身体を【ろっこん・加速】を使った御剣刀が支え、周囲から安堵のため息が漏れた。
　そうして再びアンディに注目が集まる。
「「「アンディ！」」」
　一瞬目を離したすきに、アンディの姿は薄っすらと透けていた。
　見ることが出来ない羽生碧南もその存在の希薄さを感じ取り、鵙海甫も周りの反応から状況を理解する。
「これで、帰れるんですか？」
　尋ねる宮祀智瑜の声は必死に堪えてはいるものの――明らかに震えていた。

「タブン――」

　アンディの掠れた声を聞くと、智瑜はグッと唇を噛んで「無事に帰れるみたいで、よかったです」と不格好な笑みを浮かべた。
　アンディは声を掛けようとして、けれど迷った末に何も言わずに背を向ける。

「……最後に、皆で写真を撮らないか？」

　窓へと手を伸ばしたアンディを、すんでのところで八神修が引き止める。

「――」

　アンディの返事をはっきりと聞き取れたものはいなかった。
　だが、答えはわかっている。
「では、皆さん並んでください」
　意識を取り戻した弥生先生が修から受け取ったカメラを構えた。
　３・２・１――
　シャッターの音が響く。