みかんを駆逐せよ｜リアクション

みかんを駆逐せよ

　１０　ドＳ（？）とペットのティータイム

「……ハッ！」

『宇宙人がいる』
　という噂を聞き、ン・ガイはみかん果樹園にやってきた。だが、奇怪なデザインの着ぐるみ（どうやらそれが宇宙人らしい）がいるだけだ。その代わりに見つけたのは、詠坂紫蓮の姿だった。

「ドＳ様……！」
　ン・ガイの声に反応して紫蓮が振り返り、「ひょわっ！」と声を上げる。
「そこにいるのはシロじゃない」
「これは、罠！？　あっちこっちから良い匂いがしているのも罠なのだな！」
「罠？　何言ってるのよ。どうも最近よく会うわね。あなたもみかん食べに来たの？」
　紫蓮は、もうすぐ誕生日だった。それもあって、甘い物とかいいよね、と思っていたところに果樹園のイベントを知ってやってきた。目的はみかんスイーツカフェだ。
　これは、今日はみかん漬けにするしかないわね！　と思っていたところにドＳ様の呼び声があって振り返ったのだが。ン・ガイ――シロは。
「この我を陥れようとは片腹痛い……なれば片っ端から喰らってくれようぞ！　ふははははは！」

　とか言っている。
「だから、何言ってるのよ」
「は、いや違うのだドＳ様……」
「こら、誰がドＳか」
　シロはやけにびくびくしていて、紫蓮は周りを気にしながら注意する。
「ちょっと、そんなに怯えないでよ。変な目で見られてるじゃない……普通にしてよ、普通に……」
「！　な、ならば紫蓮よ、我大人しくしてるから。だからそんな顔しないで怖い」
　やはり、シロはびくびくしている。紫蓮はひとつ溜め息を吐くと、彼女に言った。
「んー……、まあ１人で回るのも味気ないし、一緒に回る？」
「行きます、奴隷のように従います。ご一緒させていただきます！」
　シロは即答した。紫蓮に対して断るなど考えられない。
「私のお目当てはスイーツだけど、どこか見て回ってみる？」
「ふむ、そうだにゃ……」
　シロは少し、考える。自分は宇宙人見たさに来たのだが、みかん宇宙人はその辺にたくさんいるから、何かしながらでも観察できるだろう。
「良いぞ。紫蓮のお目当てとやらに向かおうではないか」

　みかん宇宙人に案内されてスイーツカフェに入る。
（みかん宇宙人って、なんか不思議な顔してるわね……）
　紫蓮がそう思っていたら、シロが意外な発言をした。
「しかし、みかん宇宙人とやらはなかなか地球人に友好的なのだな」
「えー？　友好的って、そりゃみかんの宣伝してるわけだし。敵対的だったら、皆、みかん食べなくなっちゃうでしょ。変なこと言うわねぇ」
　シロは、なんだかつまらなそうな表情をしている。そしてとんでもないことを言った。
「もうちょっと何か刺激が欲しいのである。あとでみかんぶつけてみるか」
「それはやめなさい」
　ジト目を向けると、シロは「！」と怯えて縮こまった。そこで、注文したスイーツが次々と届けられる。
「お待たせいたしました」
「わー、美味しそう！　さ、今日のメインイベント、いってみましょうか！　いっぱい歩いたし、いっぱい食べるよー」
「どれ、我が喰とうてやるから光栄に思うがいいぞスイーツども！」
　２人共、まずはゼリーとパウンドケーキを食べることにする。ゼリーを食べようと紫蓮がスプーンを取る間に、シロはばりむしゃあ、と犬食いを始めた。紫蓮は驚いて、スプーンを持ったままぽかんとする。
「ん、美味い！　もう１個！　さらにもう１個！　ほれ紫蓮、そなたも食わねば我が全て食い尽くしてしまうぞ！　ふはははは！」
　ここで、紫蓮は我に返った。
「ってこら、いっぱいあるんだから人のに手を出すんじゃないの！　ちゃんと普段からご飯食べてるの……？　ほら、ちゃんと座って行儀よく食べなさいよ。それに、ケーキはともかくゼリーを直接食べるのはないでしょ！　ちゃんとスプーン使って食べなさいってば。シロだって女の子なんだからさ」
　ぽかんとしていた時間分、ツッコむところがあって忙しい。
「フォーク？　スプーン？　なんぼのもんじゃい！」
　噛みついてきたシロに、紫蓮は目をすっと細める。
「は……あ、いやうそです、うそです、ほんとうにうそ……アッー！」

　――何かがあったらしい。

　静かになった店内で、シロが椅子に座ってフォークを使ってケーキを食べている。その向かいで、紫蓮は落ち着いてゼリーを口に運ぶ。
「ん、おいし」
　甘みと酸味が際立って、そのまま食べるのとはまた違う美味しさだ。
「あ、すいません」
　他のスイーツも食べようと、店員を呼び止める。
「後、これとこれとこれもくださーい」
「かしこまりました。ありがとうございます」

　店員は、先程目撃した「何か」への思いを全く感じさせない鉄壁の笑顔で注文を受け付けた。

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みかんを駆逐せよ

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