せんせいといっしょ：高野先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：高野先生編

●みんなでおてつだい！
　さて、と片付けを開始しようとすると、だーっと跳び箱まで影が一つ駆けて行った。
「高野ちゃん先生！　片付けるまえにコレで一回遊びたいぞ！」
　そう言ってからんはぴかぴかの跳び箱に触れてみる。
まっさらな布が張られた最上部は手触りも堅い。
木で造られた段はすべすべでほんの少し冷たくて、でも暖かいような気もして。
　触っていると気持ちいい。
「ああ構わないよ。思いっきりやりな」
　カカカッと有紀は笑う。
「わーい！　からん、跳び箱得意なんだ！」
「それじゃ、俺たちはマットの方から片付けようか」
「はいはーい、じゃあ私が一緒に持つよー」
　腕まくりをした博美が近くにあったマットレスの端を持ち上げ、二つ折りにする。
　その対面にといきはしゃがみこんで手をかけた。
　一人一枚運べなくもないと思ったが、人と息を合わせることも鍛錬の役に立つかもしれない。
「ありがとう。じゃあ、せーの」
「のっ！」
　息の合った掛け声でマットレスは軽く持ち上げられる。
　博美が倉庫の位置を目視しようと辺りを見回すと、突然引っ張られた。
「わっとと。早い早い」
「ん？　あ、ごめんー」
　気まぐれなといきのペースに合わせようと頑張りつつ、声をかける。
「皆も見てないで手伝ってくれよ？　近い所から一つ一つ片付けてけばいいと思うし」
　博美の言葉に、何となくどこから手を付けていいか迷っていた面々は頷く。
「私も運ぶか。よいせ、っと！」
　二つ折りのまた半分、四つ折りにして運びやすいようにして抱えるように有紀はマットレスを持ち上げた。
「おお、有紀ちゃんセンセー力持ちなのだ！」
「はは、ありがとさん。まあいつもなら二枚くらいは一緒に運べるんだけどなあ」
　腹が減っては何とやらだな、と参ったように呟く。
「すごい！　うちもできるかな～？」
「えっ、二枚ですか……」
　はしゃぐトモエの横で、予想外の言葉に驚きつつ体育教師ならあり……なのか？　と真剣に考え込む修。
　高野先生の場合、力もさることながら腕の長さも関係しているかもしれない。
「……座っていろ」
「へ？」
　マットレスを抱え直そうとした瞬間、かけられた声に間の抜けた音が有紀から零れる。
　思わず、というように顔を見つめていると、居心地が悪そうに紅玉は視線を逸らした。
「腹が減っているのだろう。そんな力なさそうに運ばれたら心配でかなわん。元気の無い女性に運ばせるなど見ていられないしな」
　だから寄こせ、と続けようとした紅玉。
　視線を戻すと、満面の笑顔を浮かべた有紀と目が合った。
「な、何だその顔は」
「ククッ、いやーそういう女性らしい扱いは久しぶりでな。なんだなんだ、頼りになるな花王は！」
　言いながら背中をばしばし叩かれる。本当に弱ってるのか首を傾げるくらい力強い。
「まったく、俺様にこんな雑用をさせるとは……」
　半ば奪うように手に入れたマットレスを持ちやすいように抱えながら、ぶつぶつと呟く。
「紅玉ちゃん、紳士だね！」
「かっこいいのだー。ひゅーひゅー」
「あぁもうそんな事はどうでもいい！　貴様らもさっさと運べ！」
　ふん、とトモエと真央に噛みつくよう叫ぶと、拗ねたようにそっぽを向いて歩いて行った。

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