せんせいといっしょ：高野先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：高野先生編

●おひるやすみ

　キーンコーンカーンコーン……

　学校中に鳴り響くチャイムの音が4限目の終了を告げた。
　ノートを閉じ教科書をしまう乾いた音が教室内に広がり、生徒は思い思いに授業の片付けをし始める。
　授業が終わった後は、お待ちかねの昼食タイム。早い者は既に昼食を机の上に出していた。
　と、同時に何人かが教室の外へと争うように駆けだしていく。足音が廊下の奥へと消えていった。
　我先にと購買へ向かったのだろう、この寝子高ではいつもの光景だ。
　少し体を動かすと、座りっぱなしで体中の筋肉が固まったように軋むのがわかる。
　ご飯を食べる前に身体を動かしに行くのも良いかもしれない。
　さて、今日の昼休みはどうしようか。

　大きい瞳に幼い顔立ち、ふわりとした髪の中にぴょこんと飛び出した毛を揺らしている姿は可愛らしい、という形容詞が浮かぶかもしれない。
　しかしきっ、と引き締まった瞳の中に鋭い雰囲気を秘めた花王紅玉は、竹刀を持って目的の場所まで歩いていた。
　昼休み初めならばまだ人はいないか、少ないだろう。そう思って体育館前に到着する。
「……む？」
　紅玉は、ふと扉にかけた手を止めた。
　中から話し声が聞こえる。誰か居るのだろうか。少しだけ扉を開く。
　顔を覗かせたのは担任の教諭高野有紀と、クラスメートの奈良橋博美。
「いやー悪いな！　せっかく用があって来ただろうに、手伝ってもらう事になって」
「マットがあったんじゃストレッチも出来ないからね。それに何より、助けになるんなら手伝いたいし……あれ、紅玉君」
「高野教諭に、奈良橋？　何かあったのか？」
「ああいや、奈良橋にここの片付けを手伝ってもらう事になってな」
　紅玉がそう聞くと、有紀はちょっとばつが悪そうに笑う。
　ほら、と示された体育館内を覗くと、なるほどマットに跳び箱まである。
「俺も体育館にはストレッチしに来たんだけどな。困ってるみたいだから手伝おうかなって」
　そう言って口元でにっと笑う。
　手伝いか……と紅玉は考え込む。
　そりゃ、まあ。手伝ってやるのも吝かではないがこう、自分から言うのは少し、躊躇いが。
　その心を知ってか知らずか、博美は言葉を重ねる。
「紅玉君も体育館に用事あったみたいだけど……時間があれば、一緒に手伝いはどうだ？」
「手伝えだと？　この俺様がか？　冗談もほどほどに……」
「そうかー。無理には頼めないもんな」
「……あぁもう、手伝えば良いのであろう！　手伝えば！」
「お、花王も手伝ってくれるのか？」
　ありがとうな、と微笑まれると何だか気恥かしい。
　目を合わせていられず顔を逸らした瞬間、足元に右から左へ猫が通り過ぎた。
　それと同時にガサガサッ、と周りで音がし、思わず辺りを見回す。
「おー、有紀ちゃんセンセーなのだ。紅玉ちゃんに博美ちゃんもいるのだー」
　近くの茂みの中からひょこっと顔を出したのは、クラスメートの後木真央。
「おう、後木。そんな所でどうした？」
　軽やかに近付いてきた真央にひっついていた草木をぱんぱんと払ってやりつつ有紀が聞くと、その猫目がちな瞳をキラキラとさせた。
「新しく見かけた猫がいたから、猫ストーカーを実行中だったのだ！」
　猫が行く先にはきっと楽しい事が待っているに違いないから。
　そう顔を輝かせる真央にそうかそうかと有紀は笑う。
「はは、そりゃ楽しそうだ。今度、面白そうな猫がいたら私にも教えてくれよ」
「あ、それは俺も興味ある」
「お安い御用なのだ！」
　どーんと誇らしげに胸を張る真央。と、紅玉と目があった。
「紅玉ちゃんにもちゃーんと教えてあげるから、安心してほしいのだ！」
「！　べ、別に俺は……」
　と言ったきりそっぽを向く紅玉。興味を否定はしきれなかったらしい。

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