さよならの周波数｜リアクション

さよならの周波数

　――工具とラジオと月光と

　こんな時間に、ガレージで道具を揃える者がいた。姫上雪兎である。彼は古くなったラジオを壊そうと思いたち、ガレージに来ていたのだ。
　そんなラジオから、突然音がした。いつの間にか電源が入っている。どういう事だろう、と思っていると……？

『次は、姫上雪兎さんへ、お祖父さまよりメッセージです』

（おじいちゃん……から？）
　雪兎は、目を丸くしつつその放送に耳を傾けた。

＊　＊　＊　＊　＊

雪ちゃん、元気かい？おじいちゃんは、ちょっと遠くへ旅行中だよ。
まだちょっと帰れそうにないかねぇ
そうだ、ごめんね。小学校の入学式も、幼稚園のお遊戯会も、遠足も行ってあげられなくて。今でも心残りだよ。
大きくなった顔、見たかったのぅ。
雪雄似かい？兎似かい？おじいちゃんが旅行から帰ったら、教えておくれよ。

おじいちゃんの工具、今でももってるかい？
雪ちゃんってばちっさい頃からずっと仕事を見てたら、いつの間にかいろんな物を解体してたみたいだねぇ？
年甲斐もなく嬉しくなって、入院する前の日におじいちゃんの愛用してた物を全部あげたんだったね、覚えてるかい？

おじいちゃんは修理屋、雪ちゃんは分解屋。
曲がりなりにも、そんな風におじいちゃんを継いでもらってるなら、嬉しいねぇ。……ありが……

＊　＊　＊　＊　＊

　ラジオの寿命なのか、砂嵐がメッセージの最後の言葉をかき消す。しばらくしてラジオは完全に沈黙した。
（おじいちゃん……）
　雪兎は、歯を食いしばった。何もしなかったら、泣いてしまうから。
（ありがとう）
　彼は、そっとラジオを手に取ると、迷わず工具箱を取り出し、ドライバーを空いた手に取った。祖父から貰った大切な形見だ。それで、ラジオを分解する。手際よく、丁寧に分解していくその姿は、別れの作法のようにも思えた。

　頬を伝う涙をそのままに、雪兎は静かにラジオを分解し続けた。