さよならの周波数｜リアクション

さよならの周波数

――カルトスとポルクスは

　十朱此方はふと目を覚ました。時間は午前１時を回ったところで、中学生の彼女は普段こんな時間に目覚める事が少なかった。
（……何かしら？）
　身を起こすと、ラジオの電源が入っていた。急に聞こえてきた柔らかなメロディーを不思議に思っていると、穏やかな女性の声がした。

『最後の伝言』

　告げられたラジオ番組の名を、彼女は知らない。だが、ＤＪだろう妙齢の女性が告げた名に、此方は眼を見開いた。

『今宵、最初のメッセージは、十朱遥さんより、双子の妹である此方さんへの物です』

　此方は息を呑む。事故で喪った双子の姉から、というメッセージに驚き、胸が痛くなった。無意識に形見であるペンダントを握っていると、聞き覚えのある声がラジオから毀れ出た。

＊　＊　＊　＊　＊

此方
急な手紙ごめんね
そしてやっぱりごめんね
1人にして本当にごめん
ずっとずっと一緒にいようって当たり前のように約束していたのに

これから先を一緒に居られなくてごめんね
でも、でもね、私、後悔はしてないよ
やりたい事はいっぱいあったけど、悔しい気持ちもあるけど、でも私は後悔してない
あの時、貴方を庇ったことを
それで此方をどれだけ辛い気持ちになるのかもわかってたけど、それでもね、後悔はしてないんだ

だから此方
私の我儘だけど、約束守ってね
私の分までいっぱい生きてね
そして此方がおばあちゃんになった時にまた会おう

此方、元気でね
大好きだよ

＊　＊　＊　＊　＊

（……遥？　遥なの？！）
　此方は聞こえてきた声に眼を見開いた。同時に、酷く泣きたくなった。胸元を掴み、ただ涙を堪えながら首を振る。
（なんで？　どうしてそんな事を言うの？　謝らないでよ……。謝りたいのは……）

　双子の片割れを失い、半身を無理やり引き千切られたような喪失感と痛みは、一年近く経つ現在も、薄れてはいない。生まれた時から一緒だった相手を失うのは、こんなにも辛い事だったとは、あの日まで知らなかった。知ってしまって、酷く今も苦しんでいる。
　思春期を迎えたばかりの少女は、ただただ涙した。ただただ激しい胸の痛みのまま泣き続けた。
（遥の馬鹿……ずっといっしょって約束したのに……）
　この胸の痛みは、この先もずっと続くだろう。けれども、片割れの言葉は此方の胸にしみこんでいた。

　メッセージの最後あたりの言葉が、ふと、脳裏によぎる。此方はペンダントを見つめ、胸の痛みも涙もそのままに言う。
「……遥にいつまでも心配かけては駄目よね。しっかりしなきゃ……。1人でもがんばらなきゃ……そうだよね？」
　そして最後に、そっと、呟いた。
「私も大好きよ、遥。ありがとう」

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