さよならの周波数｜リアクション

さよならの周波数

　――愛しい声

　いつもはこんな時間に眼を覚ます事のない藤堂月乃だったが、この日は違った。時計を見た月乃は、僅かに重い頭を押さえつつも、噂を思い出す。
（そういえば、深夜に死んだ人からのメッセージを読み上げるラジオ番組があるって……）
　どこの局かはわからない。だが、彼女はラジオを取り出すと適当に選局を始めた。しばらく弄っていると、穏やかな声が聞こえる。だが、月乃の眼は見開かれた。

『次は、猪川和真さんから、藤堂月乃さんへのメッセージです』

＊　＊　＊　＊　＊

あのとき、君の目の前で逝ってしまってごめん。
事故がなかったら、ちゃんと君の誕生日にプレゼントのヘアピンをこの手で渡せたのに。
そのヘアピンをつけた君を自分の目で見たかった。
今もつけてくれていて、ありがとう。
きっと、似合っているのだろうな。

あと、夏に墓参りに来てくれてありがとう。

今でも僕のことを気にしてくれているのは嬉しいけど、どうか君には前を向いて歩いて欲しい。
幸せになってね……。

＊　＊　＊　＊　＊

（和馬……！）
　月乃は、僅かに息が止まったような気がした。初恋の相手である彼の声に、胸が酷く震え、自然と目元が傷む。

　和馬は、月乃にとって幼馴染だった。そして、いつしか恋心を抱いていた相手である。そんな相手からのメッセージに、月乃は胸が締め付けられた。
（大好きだった和馬。優しかった和馬……）
　脳裏に浮かんだ、在りし日の彼の姿とメッセージが重なる。月乃は何時しか毀れていた涙をそのままに、ラジオに触れる。
「私、またあなたに励まされたね。ありがとう……」
　墓参りでは堪えていた透明な感情が、静かに頬を濡らしていた。