さよならの周波数｜リアクション

さよならの周波数

　――星の彼方より

　その夜。大田原いいなはタブレット端末をぽちぽちと弄っていた。理由は特に無かった。妙に眠れなかったからかもしれない。
　適当に弄っていたその時、ラジオの音声が聞こえてくる。どうやらネットラジオらしい。不思議に思っていると、こんな声が聞こえてきた。

『次のメッセージは、宇佐見十六夜さんから、娘のいいなさんへのメッセージです』

「えっ？！」
　いいなは、半信半疑であったが、聞こえてきた声に僅かに唇をかみ締めた。

＊　＊　＊　＊　＊

このメッセージを聞いているいいなは、いくつになったのかな？
高校生？大学生？
それとも、結婚してお母さんになっていたりするのかな？

久しぶり、お父さんです
いいなが大きくなった姿が見られなくてごめんね

お父さんは大学で地学の先生をしているから
山登りもいっぱいするのは、いいなも知っているよね？

もし、それで死んだとしても、泣かないでください
お父さんはいいなに教えたとおり
お空に登って、春の大三角のアークトゥルスに住んでいるからね

そして『いーな星』のデネボラ、『お母さん星』のスピカと一緒に
いいなが元気に育つのを見守っているね
だから、お母さんとお爺ちゃんお祖母ちゃん
叔母さんと叔父さんと一緒に、仲良く暮らして下さい

もし大切な人ができたら、お父さんに教えて下さい
幽霊になって取り憑こうとかそんな事は考えてないからねっ！

＊　＊　＊　＊　＊

　いいなは思わず纏っていた緑色のコートを握り締めた。彼女の過去は多少複雑である。父親の死後、母親の再婚相手と色々あり、その後祖父母によって保護され、現在に至る。自分を命がけで護ってくれた祖父母は既にない。父親はその事を知らないのかもしれない。
「父さん……」
　毀れた涙もそのままに、いいなは呟く。
　確かに再婚相手との事、母との事は深く彼女の心を、魂を傷つけている。けれども、この島は、この島の仲間たちとの日々は、少しは傷の痛みを薄れさせてくれているのかもしれない。そう思いながら、彼女は口を開く。
「母さんは、再婚して……再婚相手との喧嘩で……。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは……身体を悪くして…死んでしまった。……でも寝子島には居るから……元気でいるから」
　何故だろう、緑色のコートが自分を護ってくれているように思え、何故だか父親に対し僅かな罪悪感を覚えてしまったいいなであった。

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