さよならの周波数｜リアクション

さよならの周波数

　――マザーズ・ララバイⅠ

　桜花寮のとある部屋。ベッドの中で飛吹勘助はラジオを弄っていた。最近父親からもらった物で、なかなか気に入っている。
　他の人に迷惑をかけぬように、と小さな音で、しかも布団の中でラジオを聴いていた勘助。だが、ここでラジオから自分の名を呼ぶ声がした。

『次は、――さんから、息子の勘助さんへのメッセージです。では、どうぞ』

（えっ、母さんから、俺への……？）
　勘助は、母親の事をあまり知らない。彼の母親は、命と引き換えに出産したといっても過言ではなかったのだ。
　面食らった勘助は、僅かにラジオの音量を上げる。すると、優しい女性の声が聞こえてきた。

＊　＊　＊　＊　＊

私、君を生んだ直後に死んじゃったから、
君はどんな子なのか分からないけど、
きっと君はすっごく優しくて、強い子なんだろうなあ
だって、もふもふをずっと大切にしてくれてるから！

そんな君に、私から曲をプレゼント！
本当は君が生まれた日にあげたかったけどね

この先、挫けそうになることもある
泣きそうになることもある
死にたくもなる
けど、
君にはひたすら生きてく力がある
そんな君を支える人達もいる
もちろん、私も見守ってる！

だから、
君はただまっすぐに生きて、人生を楽しんでほしい
そう願ってるよ

さよなら
私の愛する息子、勘助
また来世で会おうね

＊　＊　＊　＊　＊

　母親からのメッセージにあわせ、ピアノの音色が聞こえていた。生前、勘助の母は自由奔放でハグ魔な女性だったと聞く。それと同時に、大変努力家なピアニストだった、とも聞いていた。
　そして、メッセージと共に聞こえた曲は、母親が作曲したという『祝福のアリア』……父親が、子守唄として口ずさんでいた曲だった。
　思わず歯を食いしばり、兎のぬいぐるみ『もふもふ』を抱きしめる。勘助の頬を熱い涙が流れ、彼は静かに『もふもふ』へと顔を埋めた。
（お母さん、ごめん……。俺、弱虫なんだ……）
　胸が苦しくてたまらない。涙が止まらない。それでも、彼は目を開く。『もふもふ』から顔を挙げ、そっとカーテンの隙間から見える星空を見上げて、思う。
（でも、ありがとう。……これからも、天国で見守っていてね）

　ピアノの音色が心にしみこんでいく。母親との繋がりを感じつつ、勘助は静かに『もふもふ』をもう一度抱きしめたのだった。