猫鳴館のとある一室。
昼なのか夜なのか、時間はわからない。
なぜならその部屋にはまったく日が差しこまないからだ。
部屋の主はゾンビ――もとい、
屍 骸、16歳。
土気色の肌に、派手な色のシャツ。<バッキンガム宮殿>の文字が眩しい。
彼は自室で栽培しているもやしの伸び具合を、なんとはなしに眺めていた。
すると、そのもやしが、もぞら、もぞらと動き出した。
「なっ、なんだ? もやしが、う、動いてる! 急成長か!? 怪光線の影響か!?」
急成長したわけではないし、もちろん怪光線などどこからも照射されていない。
にも関わらず、もぞら、もぞら、と、もやしは動き続ける。
骸は両の手のひらを頬にあて後ずさる。
「こいつぁ……腐れやべぇ!」
いましも喉の奥から悲鳴を上げようとしたそのとき、生白いもやしをかき分け、小さな顔が現れた。
「違います、屍殿。私です。ねずの鳶色彦(とびいろひこ)です」
鳶色彦。猫鳴館の地下に住む、こびと――ねず族の少年だ。
骸とは、
ネズミ騒動の際に面識があった。
「うぉ~い……驚かすなよ……」
「実は、屍殿にお願いがありまして、こちらにお伺いした次第で」
「お願い?」
「はい……実は、このところ、
夜な夜な聞こえる奇妙な猫の鳴き声に苛まれていまして……」
「猫の鳴き声?」
「ええ。ニャーゴ、ニャーゴとまるで耳元に猫がいるかのように……おかしいと思いませんか? 私の住まいは地下深くです。この辺りの地下の生き物とはみな友だちで、猫が入り込んでいたらすぐわかるはずです。かといって、地上の猫の声など……届くはずがないのです」
鳶色彦は骸に身を寄せ、声を顰める。
「私は思いました。
どうして、この猫鳴館は、猫鳴く館と呼ばれているのだろう、と」
「そいつぁ……寝子島にゃ猫がいっぱいいるから、じゃねぇのか?」
「本当に……そうでしょうか……。もしや、ここには何か、猫の鳴き声に纏わる逸話が、あるのではないでしょうか……」
「あんたが言いたいのは……怪異的な何か、ってことか?」
「わかりません。ただ、ねずの仲間から、
猫鳴館裏山の古井戸の奥に、猫鳴館の名前の由来に関わるなにかがあるらしいということは聞きつけました。ですが、そこにはおそろしい霊が出るともっぱらの噂で、皆怖がっていて……それ以上のことは判らず……」
「れ、霊!?」
「私はその古井戸を探検したいと思っているのですが、そこに近づくと具合が悪くなってしまってだめなのです。お願いです、屍殿! 屍殿の
うぃーんうぃーんで、霊をなんとかできないでしょうか!?」
鳶色彦は膝をついて懇願する。
「いやぁ……うぃーんうぃーんは……どうかなぁ……超音波だからなぁ」
いや、超音波ですらない。骸がただ、口で言っていただけである。
「しかしまあ、俺ぁこう見えて社交的なゾンビだからよ、あんたの探検に付き合ってくれそうなやつに声かけてみることぐらいは出来るぜ」
「ありがとうございます。恩に着ます……!」
数日後。
骸の話を聞いたりその噂を耳にしたりして、興味を示した者たちが、猫鳴館裏山の古井戸の前に集うことになったのだった。
こんにちは。ゲームマスターを務めさせていただきます、
<温故知新のアーカイブズ>笈地 行です。
(猫鳴館シナリオをがんばってたら、焼きスルメマスターに称号貰いました!)
さて。今回のシナリオジャンルは、冒険、伝説、ちょっぴりホラーです。
ねずの鳶色彦といっしょに霊のいる古井戸ダンジョンを探検して、
どうして猫鳴館が猫鳴く館と呼ばれるようになったのか突き止めてください。
<霊感について>
古井戸ダンジョン内では、霊感のあるキャラクターほど、
霊圧のため具合が悪くなり立っているのも大変になります。
ましてや、ろっこんを使うことなどできません。
しかし、試練の中には霊感が必要なものもあります。
ですから今回の冒険では、霊感のあるキャラクターと、
霊感のないキャラクターの連携が重要になってきます。
本シナリオでは特別に、下記のような【霊感度】を設定しました。
【霊感度】(4段階)
レベル0:霊感ゼロ。幽霊とかおばけなんか見えないし感じない。
レベル1:一般レベル。幽霊やおばけがいると、なんとなく寒気がしたり、肩が重くなったりする。
レベル2:プチ霊感あり。幽霊やおばけの存在を感じることができる。あのへんが嫌な感じ、とわかる。
レベル3:霊感あり。幽霊やおばけを見ることができる。
アクションにはこの【霊感度】を書いてください。
明記のない場合は、自由設定欄如何に関わらずレベル1として扱います。
<猫鳴館裏山の古井戸について>
藪に覆われ、すっかり忘れ去られていた古井戸です。
井戸は円いコンクリートで蓋がされていますが、
男性が2~3人で持ち上げれば外すことができます。
井戸の蓋になっていたコンクリートには、
ねずなら読める小さな字で「丑寅の門を探せ」と落書きがありました。
井戸の底へは、ロープや縄梯子を使えば降りることができます。
井戸の中では、霊感レベルによって、下記のような状態になります。
霊感レベル0~1:
いつもと変わらず動けます。
ただし、霊は見えません。
霊体に干渉すること(霊に触れたり、ろっこんでダメージを与えたり)はできません。
霊感レベル2:
具合は悪くなりませんが、
ろっこんが発動しにくくなったり、威力が弱くなったりします。
霊がいるところは何となくわかります。
霊体に干渉することは難しいです。
霊感レベル3:
具合が悪くなり、ろっこんが使えなくなります。
具合の悪さは、レベル3で頭痛や吐き気がします。
霊は見えます。
上手くやれば霊体に干渉することもできるかもしれません。
古井戸の中はちょっとしたダンジョンになっており、
3つの試練が待ち構えています。助け合って、試練をクリアしてください。
●第一の試練:井戸の底、丑寅の門
井戸の底は少し広い空間になっており、10人程度はゆうに立つことができます。
井戸の入り口以外の光は届きません。水は枯れています。
第一の試練、第二の試練では、霊感レベルによって下記の状態になります。
まずは井戸の奥へ進むため、「丑寅の門」を開けましょう。
暗い井戸の底で、丑寅の方向を探し当ててください。
ただし、方位磁石は狂ってしまって使えません。
●第二の試練:通路の先、地下水の濁流
「丑寅の門」の先はしばらく通路になっており、
その先で突然、地下水の川にぶつかります。
川幅は3メートルほど。流れは速く、落ちたら流されてしまいます。
濁流の向こうは岩壁に、ぽっかりと人が通れるほどの穴が開いています。
そこが第三の試練へ続く道です。
どうにかして、全員で川幅3メートルの濁流を超えてください。
●第三の試練:地下空洞、猛る霊
濁流を超え、しばらくいくと、地下空洞にでます。
そこには猛る霊がいます。
霊の声は「ミャーゴ」。
気が立っていて、霊力であたりの石や岩を飛ばしてめったやたらと攻撃してきます。
ひとことでもこちらの声が届けば、霊圧を弱めてくれますので、
霊感のあるなしに関わらずろっこんを使用できるようになります。
猛る霊をなんとかして鎮めてください。
猛る霊を鎮め、話を聞くことができたとき、
鳶色彦が聞いた猫の声の謎と、猫鳴館の名前の由来が明らかになる、かもしれません。
<冒険の同行者、NPC鳶色彦について>
此度の冒険には、猫鳴館地下に住むこびと<ねず>族の鳶色彦が同行します。
(彼の登場についてはシナリオ「猫鳴館、ネズミ騒動」をご参照ください)
○鳶色彦(とびいろひこ)
猫鳴館の地下に住む、身長約20cmのねず族の少年。
白っぽい古代風の着物を身に纏い、腰には獣の牙の短刀、
鳶色の髪をみずらに結っている。
性格は律儀。冒険は好む方。
ねずの間では忌地と言われていた猫鳴館に住まいを構えるような勇気もある。
一人称:私、二人称:(苗字)殿。
霊感は、レベル3。
GA推奨いたします。
――さあ、探検に出かけましょう!