暖かな日差しの降り注ぐ、気持ちのいい日だった。昼は過ぎたものの、未だ陽は高く、すり抜けていく風も気持ちがいい。
恒例となっている校内見回りという名の散歩を終え、
雨宮 草太郎校長は職員玄関に足を踏み入れる前に手に提げたビニール袋を覗き込んだ。
寝子島高校の近くに三匹の子猫が捨てられていたのは、つい二日前のことだった。
お約束とも言うべきみかんの箱に入れられ、ぴゃーぴゃーと可愛らしい声を上げて鳴いていたのを見つけたのも、この散歩の時間だった。
昼間でカラスもおらず、なおかつ雨も降っていなかったことが幸いしたのかもしれない。三匹の子猫は生まれてから一か月ほどと思しき小ささであるにもかかわらず、元気に箱の中を徘徊していた。
そのふわふわとした毛並みに、この好々爺が飛びつかないはずもない。
おやおや大変だとのんきに笑いながら、当たり前のように校長室へと連れ帰っていた。
その子猫達に分け与えるべく、学食の厨房からもらってきた細切れのちくわと魚のほぐし身が、その袋の中に入っていた。
「まだ粉ミルクしか飲まないかもしれないけど、小さくても猫。きっと興味はあると思うんだ」
満足げに独り言を呟き、校長室へと戻る。
しかし先に見える見慣れた扉がわずかに開いている様子に、雨宮校長は小首を傾ぎ、ふむと小さく零した。
「これはしまった。きちんと閉めずに出ていたかな」
室内を覗いて見れば、やはり子猫達の姿はそこにない。どうやら校内の探検に出かけてしまった子猫達を思い、雨宮校長はのんびりと、困ったねぇと頭を掻いた。
雨宮校長が子猫捜索の貼り紙を出し始めたのは、その日最後のホームルームの時間のことだった。
「校長先生? なにをしているんですか?」
困った困ったと繰り返しながら、それでも穏やかな表情を崩すことなく貼り紙を掲示して歩いている雨宮校長に、ホームルームを終え一番に教室を出ていた普通科の新入生、
天衣 祭が訝しげに声をかけた。
教室の窓に、断りなく紙を貼り出している姿は、校長といえども不審がられても仕方のないものである。
悪びれることなく、雨宮校長はにっこりと向き直った。
「チャオ♪ 驚かせてしまったかい? すまないね、面倒を見ていた子猫が逃げ出してしまって、みんなに協力してもらいたいから貼り紙を出しているんだ。小さいから、校内から出てはいないと思うんだけどねぇ。なにせ広いから、私一人ではとてもとても」
「子猫?」
猫好きとしては聞き流せない単語にひくりと反応を示し、貼り出されたばかりの紙を凝視する。
下手とは言えないまでも、決して上手いとは言えない独特の感性で描かれた三匹の子猫の絵が目を惹くその貼り紙には、子猫の特徴と捜索の依頼、希望者にはちくわや魚のほぐし身、子猫用ミルクが貸与されることと、最終的にはノラ猫達との区別をつけるために校長室でリボンをつけたい旨が書かれていた。
「……なるほど、校長先生のしそうなことだ。子猫を拾って校長室で面倒を見ているなど、まさにのんびり屋さんの典型的行動とも言える。まして、それをうっかり脱走させてしまうなど……」
溜め息を吐き、肩を竦めながらも、その声色は決して嫌悪に染まってはいない。むしろ胸の底から湧き上がる高揚感を他の誰にも気取られまいと押し隠しているような落ち着かない感じを醸し出していた。
緩みそうになっているのか、口許がふるふると引き攣るように震えている。
「生後一か月前後のモフモフ子猫など、そんな殺人的可愛さの生き物が校内を徘徊しているなど見過ごすわけにはいかない。校長先生、私もその紙の掲示を手伝いましょう。部室棟や講堂側にはまだ張っていませんね?」
「本当かい? いやぁ、助かるよ。校舎内はあらかた貼り終わってあとはこの階の三組から一組に張るだけだから、そうだな、そこをお願い出来れば本当に助かる」
にこにこと人の良い笑顔を見せる校長の手から貼り紙を受け取り、軽く一礼して生徒玄関を目指す。その背中を見送り、雨宮校長は思い至った様子でポンと手を打った。
「そうだそうだ、北校舎にはもう使われていないが地下室があったんだった。扉で封鎖されているから大丈夫とは思うが、怖いもの知らずの新入生も多いし、人目にはつくかもしれないなぁ。一応貼りに行っておこうか」
すでに生徒達はそれぞれに貼り紙を目にし、興味がある者はわいわいと楽しげに騒いでいる。その中で一人、、
光村 日向は眠たげな表情のまま、肩に乗っている猫のコトラに話しかけた。
「子猫だって。コトラの新しい友達になる子かもしれないね」
擦り寄る飼い猫にフフと笑い、とんとんと爪先を鳴らす。捜索に加わるかはさておき、今日は校内一周走ってみるかと腰を伸ばした。
初めまして、ゲームマスターの井之上と申します。
経験の浅い新米マスターではありますが、プレイヤーの皆様に楽しんで頂けるシナリオを書けるよう、精一杯頑張らせて頂きます。
どうぞよろしくお願い致します。
シナリオの舞台は寝子島高校全体です。
子猫の柄は黒、白、ブチの三種類。
とても小さく、具体的に言うと頭からお尻まで15センチ程度。片手で掴み上げられる程度の大きさです。
なので、人間には入ることの出来ない隙間にも入ってしまえます。
校長の言葉の通り、北校舎の地下には閉ざされた地下室が存在します。
ボールのあるテニスコート、日向ぼっこの出来る噴水周り、猫のおもちゃになりそうなものが置かれている部室棟、いい匂いのする学食など、いろいろな場所を探してみてください。
もしかしたら、子猫以外のものに遭遇するかもしれません。
校長からミルクなどを借りるほか、猫じゃらしなどの雑草を使って猫をおびき寄せることも可能です。
アクション記入の際には、
・捜索の中心とする場所
・使用したい対子猫アイテム(ミルク、ちくわ、雑草の猫じゃらし)など
・猫を見つけられた時の第一声
・猫好き度(デレデレ、そんなに興味ない、どちらかというと嫌そうに、など)
・猫の呼び方(猫、にゃんこ、猫ちゃん、ニャーさん、など)
を書いて頂けると助かります。
以下にサンプルアクションをご用意しました。
参考にして頂ければ幸いです。