--しろいこねこがみっつこえないて。
白くて。
しろくて。
まっしろな。
「あれ?」
『彼女』は目覚めた。
いや、眠っていたわけではない。ないのだが、その感覚は「目覚めた」としか表現できないもので、それが彼女を戸惑わせた。
しかも、ここはどこなのだろうか。さらなる戸惑いに混乱するしかない。
そんな彼女と共に『あなた』は旅館の玄関先にいる。いるのだが、来た憶えはないーーいつの間にかここに立っていたのだ。次から次へと降り積もる雪の中に立ちすくむ。不思議と寒さは感じない。いつか来たような気がする温泉旅館。かつては紅葉が綺麗な風景だった気がしたのだが、今は一面の雪景色だ。
「いや、それは、温泉旅館だって季節は巡るだろうけど」
言い表せない違和感に、あなたもまた戸惑いを隠せない。『彼女』もまた周囲をキョロキョロと見渡している、自分がどこにいるのか分かっていないのだろう。
それはあなたも同じことだ……声をかけてみるべきだろうか。一時の逡巡の隙を縫って、あなたと『彼女』の視点が一点に注がれた。猫だ。白猫だ。それも数十匹の。
「白猫……!!」
彼女が驚きの声をあげた。旅館の玄関先に数十匹の白猫。異常なシチュエーション。
その中に、ひとりの女性がいた。いつの間に、とあなたが疑問を口にする前に、女性の方から声をかけてきた。
「ようこそ、おいでくださいました……この、最期の夢の中へ」
長い白髪の若い女性。美しい着物姿の。見たことがある気がする。今みたいに、夢みたいな状況で。
そうだ、思い出した。この女性が現れる時、それはいつも夢の中だったではないか。いつものように……しろいこねこの声がして。
あなたは『彼女』に目をやる。目の前の女性がこの旅館の女将のようなもので、歓迎されているのは分かった。しかし、果たしてその歓迎に応えていい状況だろうか。
何かーー思い出せない。何かとても、大事な用事の真っ最中だったような気がしているのだけれど。
それはあなたの隣の『彼女』も同様のようだ。所在無げな瞳であなたの視線に応える。やがて、おずおずと口を開いた。
「あの、ここはどこなのでしょうか。その、私その、ヒトを探しに来た、のですが。ここはその、『寝子島』では、ないのでしょうか」
口調がたどたどしいのは、この状況に戸惑っているだけではないようだ。
慣れない言語を無理やり操っているような、意思疎通に微妙な違和感がある。
「あ、はい。あたし、寝子島まで、ヒトを探しに来た、のですね。あ、あたしですか」
ひと呼吸。
「あたしはその、『ミコ』といいます」
長い黒髪を雪に舞わせ、金色の瞳を瞬かせながら、『彼女』は続けた。
「はい、月ーーあなた、達が『月』、と呼んでいる、あそこから来ました」
みなさんこんにちは、まるよしと申します。
今回は時間的にひとつ前のシナリオ『私立探偵の悩みごと相談所』の直後となりますが、過去のシナリオに参加している必要はありません。
真っ白な雪が降り積もり続ける夢の中の温泉旅館でゆったりとしたひと時を過ごすシナリオです。どなたでも参加できます。また『もれいび』『ひと』『ほしびと』関係なくお楽しみいただけます。
◆直前の記憶が飛んでいます。
みなさんは夢の中の温泉旅館に来ています。直前まで何かをしていた筈ですが、その記憶が飛んでいます。最後まで忘れたままでも構いませんし、すぐに思い出して行動しても構いません。思い出した結果として、この夢から脱出することを努力してもいいですし、どうせ夢だろうと高をくくって温泉を楽しんでもいいでしょう。
◆雪の温泉を楽しむ?
この温泉旅館は以前のシナリオ『白いハコニワ~温泉旅館にようこそ~』に登場した旅館と同じ場所で、今回のシナリオは全て夢の中の出来事となります。旅館の外は大雪でとても外に出ることはできません。旅館内に設置された温泉『男湯』『女湯』『混浴』を楽しむことができます。また、料理などは女将や女中に申しつけ下されば、いくらでもご提供いたします。
◆夢としろいこねこの謎を解く?
過去のシナリオ『秋の夜長は一回休みなのさ』でケガをした白猫を助けて以来、寝子島にはこの『しろいこねこ』が住み着いています。『白いハコニワ~梅モモさくらとエトセトラ~』で登場した白髪の女性はこの温泉旅館の女将と同一人物です。
◆NPCと接触する?
NPCの詳細はマスターページをご参照ください。
今回のシナリオで登場するNPCは以下の通りです。
・天利 二十……直前まで娘であるフィリアを迎えに来ていた筈ですが、その記憶がすっぽり抜けて、酒と温泉を楽しむダメおやじになっています。
・ミコ……過去『ぽっかり浮かぶ月見蕎麦なのさ』で登場した、月から来た少女です。以前は『銀色の光』として寝子島の生物やみなさんに憑依して月からの追手『金色のウサギ』から逃げ回っていましたが、当時は言語による意思疎通ができなかったので、その目的などが語られることはありませんでした。今回は人間の姿で、無数の『金色の光(ウサギ)』と共に寝子島に降りてきました。日本語で会話できる10代後半の女性です。長い黒髪で、瞳の色が金色です。
・旅館の女将……『白いハコニワ』2作に登場している長い白髪の美しい女性です。大人びた落ち着いた物腰のこともあれば、童女のような明るさを醸し出すこともある、不思議な女性です。
今回、フィリアはこの夢の中に入り込んでいませんので、このシナリオは登場しません、ご了承ください。
◆アクションについての目安。
アクションをかける際、PCの台詞や心情を交えて下さると、キャラクターの雰囲気を掴みやすいです。
そのPCが何をしたいのか、そのために何をするのか、という目的と手段をはっきりさせるとGMとしても行動を取らせやすく、その目的を叶えやすくなります(あくまでも目安、ですが)。
それでは、皆様の楽しいアクションをお待ちしています。よろしくお願いいたします。