――しろいこねこがひとこえないて。
「あれ?」
君は今、旅館の前に立っている。深い山の中にある、純和風の、古い旅館。
雲ひとつない新月の夜と相まって、わずかな灯かりに照らし出される風情は、なかなか悪くない。
猫の鳴き声を聞いたような気もするけれど、そんなことはどうでもいい。というか、それどころではない。
だって、君はどうやってここに来たか覚えていないのだから。
さて、とんと思い出せない。
商店街の福引で温泉旅行のチケットを当てたのだっただろうか?
それとも、ネットで怪しげな格安旅行会社のプランに申し込んだのだっただろうか?
はたまた、紅葉を楽しむためにピクニックに来たはいいが、道に迷ってしまったのだろうか?
どれでもいい。何しろここは夢の中なのだから。
君はこの旅館の客だ。滞在期間も宿泊費も気にしなくていい。
君はここでゆっくりと温泉につかって日常の疲れを癒してもいいし、美味い料理と酒を堪能してもいい。
怪しげな秘宝館を覗いてみてもいいし、しょぼい土産物コーナーに苦笑いを浮かべてもいいだろう。
もちろん卓球台も、昭和の香りのするテーブルゲームのコーナーもある。
そんな風にしてこの旅館を隅から隅まで、男湯も女湯も混浴も楽しんでもいいし、しなくてもいい。
だがまぁ、その気はなくとも旅館の入り口ぐらいはくぐるといい。
まずは無機質な表情をした仲居たちが出迎えてくれるから。そして、白い着物を纏った女将が、笑顔と共に長い白髪を揺らして歓迎の口上を述べるだろう。
「いらっしゃいませ。あたくしが当館の女将でございます。どうぞ何日でも、楽しんで行って下さいましね」
ようこそ、夢の温泉旅館へ。
みなさんこんにちは、まるよしと申します。
今回は皆さんが夢の中で温泉旅館にやってきた、というシナリオです。
『山中の温泉旅館で一晩過ごす』というシチュエーションの中でなら、比較的自由に過ごすことができますので、お気軽にご参加ください。
◆夢について。
皆さんは『ここが夢の中である』ということを認識しています。
また、他の客を見たときには『この人も夢の中にいる人だな』ということを認識できます。
この夢から物体(土産物など)を持ち帰ることはできませんが、夢の中のことは鮮明に覚えていることができます(忘れても構いません)。
◆温泉について。
ひとつの大きな露天風呂があり、中央が高い垣根で仕切られています。それにより男湯と女湯が分けられていますが、深夜はその垣根がなくなって混浴になるようです。水着着用等のルールはありません。
季節は秋。美しい紅葉を眺めることができますので、PC同士の親睦を深めてもいいかもしれませんね。
◆温泉旅館と女将などについて。
女将は、腰までの白髪を垂らした着物姿の色白の女性で、年齢不詳です。妖艶な美女に見える瞬間もあれば、童女のようにあどけない表情を見せる時もあります。
この旅館や女将の素性などについては、あまり語ろうとしません。
仲居は大勢いますがほとんど個性がありません。見分けをつけるのは難しいですが、仕事を頼むと素早く動いてくれます。
常識的に旅館にあるようなものは、頼めば快く貸してくれます。厨房などの施設や食材なども、頼めば使わせてくれるでしょう。
◆しろいこねこ?
ここに来た時、確かに猫の声を聞いたような気がしましたが、探しても見つかりません。
◆私立探偵 天利 二十について。
旧市街に自室兼事務所を構える売れない私立探偵です。まともに依頼料を取らない男で、近所の子どもやお年寄り、まともな事務所で扱えないような依頼を受けて細々と生活しています。頭はボサボサ、スーツはヨレヨレの40がらみの冴えない中年ですが、サングラスやボールペン、腕時計や靴など、細部のみきっちりと手入れした品を身につけている変人です。ボロい国産軽自動車を辛うじて所持しています。
『学生さん』『坊主、嬢ちゃん』『店主さん』など相手を名前ではなく、肩書きで呼ぶクセがあります。
彼もこの夢の中に来ていますが、特にアクションがかからなかった場合は、登場しません。
◆アクションについての目安。
アクションをかける際、PCの台詞や心情を交えて下さると、キャラクターの雰囲気を掴みやすいです。
そのPCが何をしたいのか、そのために何をするのか、という目的と手段をはっきりさせるとGMとしても行動を取らせやすく、その目的を叶えやすくなります(あくまでも目安、ですが)。
では、今回も楽しいアクションをお待ちしています。よろしくお願いいたします。