『…………アストラル……タワーに……火を…………』
どこか遠いような、近いような場所で、かすかに少女の声がする。
ぼんやりとした白い世界に立っていることに気が付き、
エヴァ・ブランシェは夢かと思う。けれど……
『あ……ステラの声……届いたの……っ!』
「えっ? ステラ?」
『そう、ステラの名前なの………今は力が出ない………お願いなの…………オーブこそ希望……』
さっぱりわからない。それでもステラと名乗る少女の真に迫る声を感じ取ったエヴァは、耳を傾ける。
『オーブに…………火を、火をつけて欲しいのー!』
やがて、ステラの声はノイズが入ったように聞き取れなくなってしまう。
ぼんやりしていた白い世界から視界が開けていき――
「不思議な夢だったわね……って、ここは鈴島……!?」
最初に目に飛び込んできたのは砂浜。それから遠くに見える寝子島だった。
どうやら知らぬうちに鈴島に連れてこられてしまったようだ。
「今のが夢であって夢でないなら……」
ステラはオーブを探せと言っていた。そこで、彼女は待つと言っていたが……。
注意深く周囲を見ながら歩くと、見たことのない星の形をした小さな黄色い花に気がついた。それは点々と、エヴァを導くように咲いていて、エヴァはまるでヘンゼルとグレーテルのようだと思いながら目印を頼りに進んでいく。
暫く歩くと、扉のような形の壁に辿り着いた。
「鈴島遺跡……? でも、この扉……
以前探索した遺跡とは違うみたい……?」
扉の前にも後ろにも何もなく、ただそれがあるだけだ。
扉には草が纏わりついていて、よく見ると生い茂る草の中にも小さな黄色い花が咲いている。
扉には建物……そう、まるで塔のようなものと大小様々な星が描かれていた。
そして、その一番下には――
「オーブ!」
透明なオーブが埋め込まれていた。
「これがアストラルタワー……?」
その時、ステラの声が響いた。
『来て……くれたのね……………お願いなの……灯して……』
「……でも、どうして? どうして私が呼ばれたの?」
『あなたたちを……選んだのは…………星の力なの…………』
「あなたたち?」
ハッと気が付いて辺りを見れば、ひとり……またひとりと扉の周辺にまるで少女に召喚されているかのように人が現れていた。
『触れるだけ……星の力を得たその手で……触れるだけでいいの………………オーブに…………触れれば、火が……灯る…………命が………………』
「手が……熱い?」
エヴァがどこか優しい温かさを感じて自身の手を見ると、それはぽわんと光を帯びていた。
これが星の力を得た手なのだろう、オーブに触れればそれでステラの望みは叶うはず……。
けれど、本当に触れていいのだろうか。エヴァはオーブの近くでその手を止めて、躊躇った。こんなときは大抵テオが説明してくれものなのだけれど、となんとなく周囲を見回してしまう。
「テオ……いないわよね……?」
返事が返ってくるとは期待せず何気なく呟いたそれに、答えるモノがいた。
『テオなら現れないぜ?』
ギギギィ……という音が響いて、目の前の扉がわずかに動いた。
まさか、とエヴァは思う。確かに扉の前にも後ろにも何もなかったし簡単に動くような重さの扉ではないはず。
そんなエヴァの動揺を嘲笑うかのように、扉の向こうから黒い影の手がぬるぅりと現れ、黄色い花を包み込んだ。そして、再び黒い手が花から離れた時……花は真っ黒に染まって――――
「な……っ!?」
真っ黒な花びらは獰猛な獣の口のように、鋭いトゲを生やして大きく開き……エヴァへとその牙を剥いた。
咄嗟に飛び退き、その牙を避けたけれどスカートの裾がほんの少し食われて、消えた。
危険なものだと、その場にいた皆の頭に警鐘が鳴る。
そんな様子を見て黒い人影がどこか楽しげににか~っと笑う。そして今さらだろうに、扉をコンコンとノックした。
『……ちょっと邪魔するぜ?』
またギギギィと音がして扉がさっきよりも開くと、次々に黒い人影が現れる。そして、扉を守るように2匹の黒い犬がエヴァたちへと威嚇の咆哮を上げた。
そして、ステラの声が聞こえるのは、これが最後だった。
『お願い…………黒いのは…………星の力で消せる…………オーブに、火を…………!』
エヴァは十分な距離を取ると、スカートから扇子を取り出した。
「仕方ないわね……」
こんにちは、加持蜜子です。
エヴァ・ブランシェさん、ガイドへのご登場ありがとうございました。
もしご参加頂ける場合はお好きなようにアクションを掛けて頂ければと思います。
これから始まる物語は、新たな世界への扉を開く鍵となる物語。
扉を開く勇者たらんあなたや、勇者じゃないかもしれないあなたに贈る、壮大な新シリーズへの序章となります。
無事に火を灯すことができるか、はたまた闇に呑まれてしまうのか?
どうぞ、知恵と勇気と力を振り絞り、ステラの願いを叶えやってくださいませ!
以下、ご参加頂く場合の注意事項となっております。
少し長くなりますが、お付き合いくださいませ。
導入と星の力について
ご参加のPCさんは、どういうわけか気が付いたら鈴島にいました。
(ガイドにあるようにステラと夢での会話を経て、全く訳がわからないまま、など
お好きにアクション掛けて下さって構いません)
どうやら「星の力」に選ばれて、鈴島に呼ばれたようです。
ひとりにひとつ、不思議な光が宿りました。
光は体に宿ったあと、その者にあわせた形状に変化し、身につけることになります。
例:指輪、体に埋め込まれる、武器になっている、愛用の武器の装飾に。
※武器が必要な方は、光が変化して、
これらの光を授かった武器(剣、弓、斧、杖など)になります。
武器はひとりひとつ。双剣など2つで1セットのものなども可。
※星の力やその形状は、変化したりしなかったりいろいろなケースがあるようです。
(このシナリオの中では変化しませんので、今回はひとつだけ選んでください)
剣士の光(青) :剣技が上手くなる
闘士の光(オレンジ):腕っぷしが強くなる
狩人の光(紫) :弓矢が強くなる
盗人の光(金) :宝物を見つけたり鍵開けが得意になったりする
魔火の光(赤) :火の玉を飛ばす魔法が使える
魔水の光(水色) :水流を鉄砲の様に飛ばす魔法が使える
魔風の光(緑) :つむじ風を起こす魔法が使える
魔土の光(茶) :土礫を投げつける魔法が使える
癒しの光(白) :自分や他者を癒すことができる
これら星の力と知恵と友情とを駆使して、扉から現れた黒い影たちを倒し、
星の力を得たその手でオーブに触れて、火をつけてください。
敵について
以下の敵が現れています。
【1】黒影(黒い人影)
人語を解する者と解さない者、いろいろいる。
動きはそんなに俊敏ではない。
黒い塊のようなものを投げてくる。触れてしまうと触れた部分の動きがしばらく鈍くなる。
包み込むようにしっかり掴まれると、その部分が黒くなってしばらく支配される。
黄色い花が黒い花になったように。
物理的打撃、ろっこんの力などは通用する。ダメージの蓄積により消滅するはず。
扉から、次から次と現れてキリがないが、ある程度間隔を空けての出現となる。
【2】黒犬
2匹。扉の前に陣取っています。人語を解しない。
誰かが近付くと攻撃の意思を見せる。
物理的打撃、ろっこんの力が通用するが、再生能力もそれなりにある。
【3】黒花
黒い人影に支配された人食い花。
花びらはどう猛な獣の口のように、鋭いトゲを生やしている。
ふわふわ浮いたり飛んだりして襲ってくる。
扉の周辺には花は少ないが、少し離れた崖の上に花がたくさんあり、人食い花にされる可能性あり。
【4】謎の生物
角が二本生えて、ニカッと嗤った謎の生物。のビジョン。
人語を解するっぽい。
非常に強い気配を纏っているが、実体がなく対処しようがない存在。
今のところ状況を面白がって、扉の上空で跳ねながら成り行きを見守っているだけ。
アクションについて
勝利条件は、(黒い影たちを倒し)扉にはめ込まれたオーブに触れて火をつけること。
アクションには
1.どの光をまとったか(どの形状になったか)
2.どの敵と戦うか
をお書きください(サンプルアクションの書き方をご参考ください)
※もれいびは「星の力」と「ろっこんの力」の両方使えます。
※ひとは「星の力」を使えます。
※もちものは、そのPCが持っていて自然なものであれば、ある程度持ちこめます。
※以前あったシナリオ、鈴島、森に隠された古代遺跡遺跡とはまた違った遺跡となりますので、こちらのシナリオは参照なさらなくても大丈夫です。
それでは皆様のご参加お待ちしております。――さあ、物語を切り開け!