ぱちり。
茜色の光が弾けて。
直後に出迎えたのは、砂塵まじりの強烈な突風。頭上でぎらぎらと容赦無く輝く、大小ふたつ、巨大な双子の太陽。
にゃあ、ふにゃんと、
白黒猫の呼び声……それに、
「……撃ちまくれ、
ニヴィエッ!」
「無茶言わないでよね、
ファシナラ! こちとら身重だってェの……きゃあ!?」
「くそッ」
ぱん、ぱぱぱんと荒野に響く、乾いた銃声。戦いの音でした。
ふたりの若い男女は、旅人のようです。
いかめしい顔をした
痩身の男の左手には、木製の簡素な長銃。右手には、湾曲した鋭い銀色の刃を持つ剣。使い込まれた武器とそれを振るう巧みな技を見るに、どうやら戦士のようです。
はすっぱな印象を受ける
活発そうな女は妊婦のようで、膨らんだお腹を片手で抱え、男の影へと隠れながらに頼りない小さな拳銃を振り回し、やみくもに周囲へ撃ち放っています。
敵は……小さな、たくさんの影。言うなれば、小鬼のような。
「西の街まで、あと少しだというのに……なぜこんなところを、
屍人(スカベンジャー)なぞがうろついている……!?」
きき、ききき、と金属めいて甲高い声を上げ、ぞろりとした不気味なボロ布をまとい、手に手に短剣やら鉤爪やらを構え、男女を取り囲み襲いかかる敵の群れを、いくら銃で撃ち抜こうと、銀剣で切り捨てようと。後から後から、小さな影たちは波状を成して押し寄せます。
「あ! 返せッたら、この!」
鋭く振るわれた短剣によって弾かれた拳銃が女の手を離れて、どこかへ飛んでいきます。程なくして、男も銀の剣を鉤爪に絡め取られて手放してしまい、頼りは男の持つ単発式の長銃のみ。
横殴りの風にばたばたとはためく、ボロ布のフードの中で光る真っ赤な瞳が、いくつも、いくつも。彼らへと。
「くそ……これまでか……!?」
「ちょ、ちょっと、諦めてンじゃないわよ! アンタね、旦那が嫁を守らないでどうすンの…………、?」
すう、と。銀色の一閃が、もうもうと舞う砂塵を、静かに切り裂いて。
突如現れた、彼が鋭く翻したのは、先ほど男の手から離れた銀色の剣です。
「……誰だか知らないが。傷つけさせるわけにはいかない」
腰を落とし、横ざまに銀剣を構えた
御剣 刀。その刃の怜悧な輝きに、小鬼たちがびくりとして飛び退ります。
その足元へ、ぱぱん、と撃ち込まれて赤土に穴を穿ったのは、女の持っていた拳銃。
「威嚇と警告は一度きりだ……立ち去れ!」
ヨハン・プレストン。両の瞳は突きつけた銃口にもまして冷たく敵を見据え、怯えた彼らは、じりりと後ずさり。
それでも足を踏み出し、短剣や鉤爪を旅人たちの血で染めるのを諦めない、いくつかの影たちの行く手へ。次々に突き立った投げナイフの放つ、研ぎ澄まされた光。
「僕は、どちらでも構わないけどね。やるなら相手になるよ?」
サキリ・デイジーカッターの発した決して優しくない響きが、どうやら決め手となったようです。
小鬼たち……スカベンジャーは我先に、きいきいと耳障りな甲高い声を上げながら、砂塵の中へと消えていきました。
「……ひとまず行ったか。あの数では、いずれ我々も、荒野の骸の仲間入りを果たしていたところだ」
「連中、屍漁りのクセして、最近じゃァ死体作りにまで熱心なンだから。助かったわ、アンタたち!」
ぶっきらぼうに、砂煙の向こうへ警戒の視線を投げる男に代わって、女が、大きなお腹を両手でさすりながらに、彼らへ自己紹介しました。
「アタシは、『ニヴィエ』! 見てのとおり、かよわいただの妊婦サンよ。こっちは旦那の『ファシナラ』、以前は東の街の護衛長も務めてた腕っこきで……」
「そんな話はいい」
枝のように細くも精悍な腕を伸ばして、女の話を遮った男。
鋭い眼光で彼らを一瞥し……けれどすぐに、恐らくはこのあたりの礼節なのでしょう。す、と独特の仕草で一礼すると、
「急ぎ、街までたどり着かねばならないが、馬をやられてしまってな。お前たちが何者かは知らないが……できることなら。我々を、助けてはくれないだろうか?」
深刻そうな表情で頼んだ男の胸元には、鎖に繋がれゆらゆらと揺れる、
茜色の宝石。
砂塵舞う、双子の太陽が照らす赤茶けた荒野。
その真っ只中で佇む彼らを導くように、にゃおん、と白黒猫。
アルクが軽快な足取りで、焼けつくような赤土の上を、西へと向かって歩き出します。
その行く先を遠く眺めれば……ふたつの日光を照り返す、まるで鏡のような湖。そのほとりで熱気に揺らぐ大きな街が、おぼろげながらに見えました。
墨谷幽です、よろしくお願いいたします~。
ガイドへは、御剣 刀さん、ヨハン・プレストンさん、サキリ・デイジーカッターさんにご登場いただきました。ありがとうございました!
(もしご参加いただける場合は、上記のシーンに寄らず、ご自由にアクションをかけて下さって構いませんのでっ)
前回のあらすじと、このシナリオの概要
白黒のちょっと変わった猫、アルクと一緒に異世界を旅する『さまよいアルク』シリーズの第二章となります。
なお第一章では、大まかに以下のような出来事がありました。
不思議な猫『アルク』と出会ったことで、異世界へと連れてこられてしまった寝子島の
住人たち。
初めは戸惑ったものの、美しい海と空を擁する街では、いかにも楽しげな『豊漁祭』の
真っ最中。異文化コミュニケーションは、ボディランゲージから! とばかりに、彼らは
踊りの輪に飛び込みます。
大空を泳ぐ空魚たちと、それを獲るために有翼船へ乗り込み飛び立つ漁師たち。
彼らの好意で船に乗り、空のクルーズを楽しんだり、あるいは屋台で空魚料理に舌鼓を
打ったり。
大いに楽しむ中で、彼らはアルクの首輪に取り付けられている茜色の石が、
ローシルティウムという名の宝石であることを知ります。
旅芸人の一座と交流を深める中、アルクがひと鳴きすると、彼らは素敵な世界を後にして、
また別の世界へと旅立ちました。
上記を踏まえて、今回アルクに連れてこられたのは、双子の太陽と三つ子の月を持つ乾いた世界。
昼はごうごうと砂まじりの強風が吹き荒び、夜はしんとして底冷えする空気に包まれる、過酷な世界です。
皆さんはこの世界で、旅をするふたりの若い夫婦と出会います。
夫である『ファシナラ』は屈強な戦士であり、彼らの目的地もあと少しの距離にあるものの、妻の『ニヴィエ』は妊娠中の身で、歩みは遅々として無理が利きません。
皆さんはふたりの申し出により、無事に目的地まで到達できるよう、彼らの護衛と手助けをすることになりました。
立ち塞がるのは、赤茶けた石塊だらけの荒野に、昼夜で逆転する過酷な環境。それに、彼らを獲物として付け狙う小さな影……荒野に斃れた者の死体を漁る異形の生物、屍人(スカベンジャー)たち。
道行きは決して楽ではありません。皆さんの力を尽くして、彼らの旅を成功に導いてあげてください。
その見返りといっては何ですが、旅の途中では、珍しく美しい鏡面湖の幻想的な風景を見ることもできるでしょう。
また彼らは、アルクが首輪に下げているものと同じ、茜色の宝石を携帯しているようです。何か、新しい情報を得ることもできるかもしれません。
アクションでできること
今回は、NPCのふたりを手助けしたり護衛したりしつつ、目的地である街を目指すことになります。
アクションには、特に重視して描写してほしいシーンを以下の【1】~【3】の中から1つ選び、ご記入ください。
※なお、現地で使われている言語(文字、音声)を理解するには、近くにアルクがいる必要があります。
放っておいても彼はついてきますが、あまり足は速くないようです。有事には抱きかかえる等したほうが良いかも。
【1】荒野(昼)
赤土を敷き詰めたような、無味乾燥とした荒野です。気温は高く、絶え間が無いほどに強風が吹いています。
人が通れる程度の道が通っている場所もあれば、巨大な岩石が折り重なったような、高低差の激しい地形が連なっているところもあり、非常に険しい道程となるでしょう。
同行する夫婦のうち、夫のファシナラは身軽で、ロープ等登坂用の器具なども持っていますが、妻のニヴィエは身重であり、高所の昇り降りには慎重な介助が必要です。
また、襲撃を警戒する必要もあります。
移動に時間をかければかけるほど、襲撃の危険は増し、さらには妻への負担が大きくなることになるため、迅速な行動が望ましいでしょう。
移動用のろっこんなどをお持ちの方がいれば、役立てることができるかもしれません。
【2】荒野(夜)
湖とそのほとりの街を望む、見通しの良い高所の平らな岩の上で安全を確保し、しばしの休憩をとります。
夜間は気温がぐっと下がり冷え込みますが、風はぴたりと止み、火を焚くことで寒さを凌ぐこともできるでしょう。
しばらく身体を休める間、以下のような技能をお持ちの方は、それらを用いて夫婦を労わることができそうです。
・料理:夫が簡単な調理器具と食材を携行。持ち込みもOK。
・会話:この機に、彼らへ旅の目的などを訪ねてみるのも良いかも。
・歌や踊りなど:娯楽の少ない土地であるため、芸事は喜ばれそう。
(その他、何でも構いません)
眼下の湖は鏡面湖と呼ばれており、人のくるぶし程度の水位しかなく、夜間は風も無く波も立たないため、三つ子の月の光をまるで鏡のように反射し、この上ない美しさです。
【3】鏡面湖
水位の低い湖を渡り、一直線に街を目指します。
周囲に遮るもののない地形であり、屍人(スカベンジャー)の本格的な襲撃が予想されます。彼らの一体一体はそう強くはないものの、脅威なのはその数です。彼らは群れをなし、次から次へと現れては、短剣や鉤爪を武器に襲い掛かります。
戦闘となった場合は、身重の妻を特に優先して守らなければなりません。また、屍人は光物を好むようで、アルクの首元にある茜色の宝石を狙ってくることも予想されます。
戦士である夫とも協力し、彼らを撃退してください。
戦いに向いた技能やろっこんをお持ちの方は、大いにそれを活用することができそうです。
荒事が苦手な方は、無理に撃退しようとはせず、夫婦やアルクの護衛に回るのも良いでしょう。
アクションには、上記に加えて、
・夫婦にかける言葉、彼らについて思うこと
・不思議な猫アルクについて思うこと、疑問など
といったあたりもお書きいただければ。
無事に街へとたどり着くことができるかどうかは、皆さん次第です。
『さまよいアルク』シリーズとは?
寝子島に現れた一匹の猫、アルクの持つ不思議な力によって、色々な異世界を探訪していくシリーズシナリオです。
訪れることになる世界は様々で、穏やかで優しい世界もあれば、険しく危険な世界もあるかもしれません。
そうした世界を巡るうち、アルクの力に秘められた謎など、明かされていく秘密もあることでしょう。
その他
●参加条件
特にありません。どなたでもご参加いただけます。
なお、こちらの第二章からご参加いただく場合は、
・実は前回の第一章の世界にも参加していたが、別行動をしていた。
・同じタイミングで連れてこられたが、時空の歪みにより出現するタイミングが遅れた。
・気付いたらいた。理由は良く分からない。
等々、お好きな形でご自由にどうぞ。あまり深く考えなくても大丈夫!
●舞台
異世界。乾いた荒野が広がり、昼はふたつの太陽、夜は三つ子の月が空に輝く、寒暖の激しい過酷な場所。
転々とながら街や村があり、人々は寄り添うようにしてどうにか暮らしています。街から街へと旅をするのは、ひどく困難なことであるようです。
なお、ある程度の時間が経過すると、アルクの持つ能力により、参加者は次の世界(次のシナリオの舞台)へと移動します。
●NPC
○アルク
寝子島に突然現れた、不思議な猫。身体の右半分の毛が白、左半分が黒で、茜色の綺麗な宝石をあしらった首輪を身に着けています。
現状ではその原理は不明ながら、アルクは2つの特別な力を持っています。
・1つは、異なる世界を渡り歩く能力。
・もう1つは、世界によって異なる言語を相互翻訳し、周囲の人々へと伝える能力。
どちらも、アルクの意思などには関わらず、自動的に発動する力のようです。そうした力を除けば、普通の猫と変わりません。
ちなみに、7~8歳くらいのオス。のんびり屋で物怖じしない性格らしく、誰にでもすぐに懐きます。
○ファシナラとニヴィエ
街を目指して旅をする若い夫婦。
夫のファシナラは戦士で、痩せぎすに見えてかなりの腕っぷしを誇ります。代わりに、口はあまり達者ではない様子。
妻のニヴィエは明るく朗らかで、戦力としては期待できないものの、過酷な環境に弱気のひとつも見せない強い女性です。
妊娠中の妻を伴い、あえて危険な旅へ出たのには、何か理由があるようです。
なおファシナラは、アルクの首にある宝石と同じ、茜色の宝石を携帯しています。機を見て頼めば、見せてくれたり話を聞かせてくれるでしょう。
○屍人(スカベンジャー)
荒野で群れを成して生活する、人ではない異形の生物。人間の子供ほどの体格で、主に過酷な荒野で息絶えた死体を漁り、その腐肉を食料としたり、物品を盗んだりして暮らしています。
短剣などの武器や道具を扱う知能を持ちますが、言葉は通じないようです。
本来は臆病な気質ですが、近年ではその活動が活発化しており、積極的に動物や人間を狩ったり、小さな村を襲撃することもあるのだとか。
●備考や注意点など
※上記に明記されていないNPC、及び今回のシナリオには参加していないPCに関するアクションは基本的に採用できかねますので、申し訳ありませんが、あらかじめご了承くださいませ。
以上になりますー。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております!