声のない世界で｜リアクション

声のない世界で

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喉をやられた――と、思っている八神修は、保健室でマスクとのど飴をもらってから新聞部の部室へと向かった。
声が全く出ないとなると、早めに記事の作成を終えて帰らねばなるまい。
先に部室に居た桜井ラッセルの分もハーブティを淹れて、PCへ向かう。

ラッセルはカップを受け取って一口飲んで、急に何かを思い出したように姿勢を正した。
ハーブティ飲んでる場合じゃない。もしかして、修も声が出ないのでは？
それから修に向かって、自分の口元で手を何度もぐーぱー。
そのジェスチャーにピンと来たのか、修はラッセルに見えるようにモニタへ文字を打ち込んだ。
『桜井も声がでないのか』
うなずくのに合わせて、金の三つ編みが揺れる。

ちょっと考えるような間が空いて、修は再び文字を打ち込んだ。
『もしかして：神魂』
『テオなら事情が分かるかもしれない』
それだ！　と言わんばかりにラッセルがモニタの文字を指差す。
しかも妙にオーバーで珍妙な動き付きだったものだから、思わず修は吹き出した。
しばらくサイレントな笑いを続けた後、おもむろに裏紙をとりだした。
こっちだけ文字入力で会話するにしても、２人で交互に文字を打ち合うにしても不便なので、
『筆談で頼むよ』
するとラッセルは「ナイス！」とばかりに親指を立てて笑顔を見せた。

そんなわけで、筆談の議題は「テオをどうやって探すか」。
ラッセルが絵や「？」マークを多用しまくる為、裏紙はもはや筆談というか半ば絵チャめいた様相を呈している。
『でも何処に居るんだろうな、テオ』
『猫の習性と気候を考えると、暖かい場所じゃないだろうか』
おもむろに四本足の珍妙な生き物が、やったらぐにゃぐにゃした物体の上に寝そべっている絵を描き始める修。
思わず手でストップをかけた。
『ちょっ！？　まて個性的だがその絵なんだ…？』
解読を試みようと、絵とにらめっこ。
よくよく見てみると、生き物の方には６本ヒゲが生えているが、これは……。
『木の上でひなたぼっこしてる猫だよ　写生は得意だがマンガ絵はまだ不慣れなんだ』
心なしかむっとした表情で修が書き加えた。
一拍間があってから、ラッセルは思わずお腹を抱えて吹き出してしまった。
オールマイティに見えた友人の、意外な弱点を見つけてしまった。
悪い悪い、と手をひらひらさせるラッセル。
その直後、閃いた彼は太ももを叩いて立ち上がった。
『何か思いついたのか？』
『おう、ええーと、こうだ』
新しい裏紙を出して、イラストがりがり。
SDラッセルがカナリアに変わり、空を飛ぶ。
その下に自転車で走るSD修が居て、そこにカナリアが合図を――という感じの絵をさらっと描き上げた。
『こんな感じ。大丈夫か?』
見ると、修はすぐに絵の意味を理解してくれたらしく、しっかりと頷き返してくれた。
『わかった、合図よろしくな』
『おう、了解。じゃあ行こうぜ！』