深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会｜リアクション

深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会

　次にトラックに現れたのはゲラゲラと笑いながら走る囚人、骨削瓢だった。速そうに見えないのに、速い。長すぎる縞々模様の袖をこれ見よがしに振って、すぐ後ろのランナーを挑発している。瓢を追うのは御剣刀。『盛られて』唯一、瓢に匹敵するスピードで彼を追うことに成功したランナーだ。きりりとした羽織り袴、若き新撰組の志士は、今非常に、肉体的に追い詰められていた。無情に押し寄せる腹痛の波で、刀の顔色は青ざめている。
「おやおや御剣はん、いつもの速さが少うしばかり足りませんなあ？　うどんはほぼ同時に平らげたはずだがねぇ」
「くっ……骨削。謀ったな……」
　クエスト一つだけに集中した瓢に対して、刀は三つのクエストをこなしてきた。その手間プラス、下剤攻撃に耐えながら瓢を追ってきているのだから、本来は刀の方がスピードではるかに勝る。しかし前を行くのは瓢だ。刀が怒っているのも、苦しんでいるのも、この順位も。彼の『計画』が実を結んだ証拠である。瓢は愉快そうにまた笑った。
「何のことだかわかんないよぃ。海賊軍団はどうやら飲まなかったようだねぇ。ああ悔しい」
そう言いながらもちっとも悔しそうな顔などしていない。グラウンドに落とし穴でも掘ってやろうかとまで考えていた瓢だったが、さすがに大勢が詰め掛ける場で下準備はできなかった。それでも瓢の計画は成功だ。少なくとも真後ろに、その企みの成果がいるのだから！
「待て骨削！　不正は許さないぞ！　……うっ……！」
「御剣はん、その仮装が得点低いわけないねぇ。合計百点は堅いンだし、ここでリタイヤしちゃあどうかい？」
「冗談じゃない。絶対に俺は完走するんだ……！」
目指す先にはすでに勝者がいる。それはわかっていた。それでも、ここであきらめるわけには行かない。心を乱し、くじけてしまうことなど、刀にとってはありえない話だった。
「おおこわこわ。だがあっしの方は体調万全、健康そのもの。負けやしないよっ」
瓢はラストスパートをかけた。刀も即座に反応し、そのあとを追う。振動が体によろしくない。汗ばむ体も身を追い詰める。己の新たな限界と戦いながら、刀は囚人を追う狩人となった。古き日本の護国志士が追うは咎人。異色のデッドヒートが繰り広げられる。

「あっはっはぁ、愉快愉快！　堂々の勝利だねぇ」
無情なるかな、此度、気力は体調不良を超えることはできなかった。もう少しというところで届かず、先にゴールラインを突破したのは瓢だった。勝ち誇った顔で振り向く瓢を、刀の突進が吹き飛ばす。
「ふんぎゃ!?」
「悪い！　通してくれ、悪い！　順位はあとで聞く！」
勝者を派手に転がして、刀は追い詰められた果ての世界へと駆け出していった。