深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会｜リアクション

深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会

「続々ゴールを決めてくれた、ランナーたちに拍手だ！　応援まだまだよろしく頼むぜ。おっと話している間にも、次のランナー、六位が来たぞ！　ちっまた男かなんて言わないでやってくれよ！　俺が言いたい！」
　深夜でもノリノリの寝子サンマさんがアナウンスするは、冴木竜司の帰還。心に想い、誓いと定める幼女との約束を胸に、懸命にここまで走って来た。楽しそうなクエストの誘惑も、和気藹々と走るチームランナーたちへの羨望も、すべて横に押しのけて。少しだけ順位が落ちてしまっているのは、途中で転倒したランナーを救助したためだった。その時間のロスを、竜司は毛ほども惜しいとは思わない。可能であれば、背負ってでも一緒にゴールしてやりたかった。今、竜司は自分の誓いと、目の前で傷つき倒れた名も知らぬランナーの託した思いを背負って走っているのだった。衣装はおどけた怪盗風だが、その心には真剣さだけが宿っている。

　その彼の思いを、ともに支えるものがいた。鬼崎あやめである。
「冴木さん！　もう戻ってきたんですね。がんばって……がんばってください！」
あやめは手を祈るように組み、竜司のため、小さな従姉妹のため、そして自分のために祈った。トラックを走る竜司の足取りに不安な点は何もない。一歩一歩しっかりと地を踏みしめ、蹴り出す。無数の拍手と声援に迎えられ、竜司は第六位でゴールに到着した。
「六位……か……」
悔しくないといえば嘘になる。駆け寄るあやめの前では、竜司は明るい笑顔でいることを決めた。涙を流すことがあるとしても、それはこの時ではない。竜司は目の奥にぐっと力を入れてこらえた。
「お疲れさまです、冴木さん。がんばってる姿、携帯で録画しておきました！」
あやめはゴールを切るおしゃれな怪盗の姿のほかに、テレビ中継の一部の録画。そこにはアナウンサーに『レース中の美談』と評されていた、ケガ人を助ける竜司の姿が映っていた。
「な、なんでこんなとこまで!?」
「つくしちゃんに伝えるんです。竜司さんの強さと、優しさを」
あやめは微笑み、『いいですよね？』と言うように首を傾げてみせた。

■冴木竜司仮装テーマ：怪盗レース50点（六位）仮装60点クエスト0点合計110点

　突如会場から、黄色い声が上がる。女性なら何を意味するかすぐ理解でき、男性は聞いているだけでいたたまれなくなるあの声は、イケメンを発見した女性たちの歓声だ。ダンディで華麗な海賊、シグレ・ナイトウォーカーの登場に、女性たちは飛び跳ねたり手を叩いたり、旗を振ったりしている。偶然目があった幸運な『レディ』には、シグレからのウィンクが贈られた。
　今、シグレの隣にはクエストを共にこなしていた日暮ねむると秋ノ宮こまちの姿はない。彼らの海賊同盟は、クエスト達成のために結成された一時的なものだった。すべてのクエストを終え、全員が三十点を獲得した次点で同盟は解散され、それぞれが自由なペースでゴールを目指すことに最初から決まっていたのだ。必然的に足の速いシグレが前に出て、こまち、ねむるはゆっくりと進む結果となった。
「ここからはそれぞれのゴールを目指しましょう。クリアできたのは二人のおかげよ、ありがとう」
しとやかに笑むこまちの顔。
「シグレ君、鶴手伝ってくれて助かったよ～。マスクが息苦しいから後から行くね。がんばって！」
顔の上半分だけ見えるマスクで不器用に微笑むねむるの顔。
二人の表情を思い浮かべながら、シグレは一人で走った。そのスピードは落ちるどころか、ぐんぐんと上がる。疲れを少しも感じさせない速さで、高貴なる海賊は今宵トラックを駆けた。