あの日のあとで２｜リアクション

あの日のあとで２

　七夜あおいと一緒に購入した、色違いのお揃いエプロン。
　今度これを着てお菓子作りを教えてほしい、と。
　あおいのそんな言葉が現実になる、今日が約束の日だった。
「あおい、ようこそ我が家へ」
　朝からそわそわとしていたのを綺麗に隠して、玄関の扉を開ける八神修。
　おどけて、わざと気取った調子で家の中へと招き入れれば、あおいがくすりと笑った。
「ふふ、お招きに預かり光栄です……なんちゃって」
　明るく弾む声が返れば、胸の奥が益々ぽかぽかと温まる。
　使用人は勿論のこと、白猫のミルクを始めとする修の愛猫達もあおいの出迎えに余念がなかったが、
「ほら、今日はそっちで待っててくれよ」
　と、暫しのもふもふタイムの後、修は猫達を台所の外へと促した。
　きゅっとエプロンを身に付ければ、さあ、楽しいお菓子作りの時間の始まりだ。
「そうだ。このエプロン、薦めてくれてありがとう」
「どういたしまして、なんてね。うん、すごく似合ってるよ、修君」
「光栄だな。あおいこそ似合ってるよ」
「えへへ、そうかな？」
　はにかみ笑いをするあおいへと、修は「御揃いだね」と微笑と共に声を投げた。
「うん、お揃いだね」
　と、あおいがにっこりとして頷く。そうして、
「それで、修先生。今日のお菓子は何でしょうか？」
　ふと姿勢を正し、けれど冗談めかした口調で尋ねるあおい。
　なので修の方も、敢えて『先生』然として顎に手など遣ってみせた。
「今日は、薩摩芋のケーキを作ろう」
「わ、おいものケーキ！？」
「そう。簡単で美味いし、弁当にもなるんじゃないかな？」
　瞳を煌めかせるあおいへと笑み掛けて、修は調理台にケーキの材料を並べていく。
「材料は、芋、卵、豆乳、ホットケーキ粉」
「ふむふむ……修君、それから？」
「それが、これで全部なんだ。ホットケーキ粉を使うから、砂糖もバターも無し」
　へえ……と感心した様子のあおいへと、じゃあ早速始めようかと修は微笑み一つ。
「先ずは、卵と豆乳を混ぜるんだ。粉を加えた後はザックリとね」
「ザックリ……こんな感じ、かな？」

「そうそう、上手い上手い」「……本当？」
「勿論。俺は嘘は吐かないだろ？」
　にこっと笑みを向けてみせれば、あおいがほっとしたように息を漏らす。
　それからあおいは、修へと眼差しを遣って、悪戯めいた表情を作った。
「うーん、どうかな？　修君ってば優しくって、それにちょっぴりキザだから」
「あおい、優しいっていうのは嬉しいけど……」
「ふふ、冗談冗談」
　２人で笑い合った後は、お待ちかねのサツマイモが登場だ。
　サイコロ状（というには中々に歪に）切ったサツマイモをボウルに入れながら、
「おいも、沢山使うんだね。それに、皮も剥かなくっていいんだ」
　なんて、あおいは感心顔。
　懸命なその様子に、修はふっと口元を緩めた。
「そう、簡単だろう？　豆乳も体に良いし。あとは、炊飯器のジャーの内側に薄く油を塗って……」
　炊飯ボタンを押せば、あとは完成を待つのみだ。
　やがてほっこりとケーキが出来上がれば、添えられるのは修が手ずから淹れた紅茶。
　試食の前にと、修はあおいの姿をケーキと一緒に写真に収めた。
　記念にと、お揃いのエプロン姿も撮影して、２人はテーブルに着く。
「修君、どうかな……？」
「ん、美味しいよ。ふっくら出来たな」
　良かったぁ、と胸元を手で押さえるあおいへと、修は優しい眼差しを遣った。
「本格的なのも作ってみる？　スイートポテトも手間は同じ位だよ」
「え、ほんとに？　いいなぁ、スイートポテト。美味しいもんね」
「俺も、スイートポテトは好きだな。……あおいは俺とどっちか好き？　なんてね」
「あはは、どうしようかな。美味しいものは正義だからな～」
　じゃれ合うような会話を楽しむうちに、ケーキはあっという間になくなって。
「あおい、今度は何が作りたい？」
　俺、練習しておくよ、と、修は心強いような笑みをあおいへと向けたのだった。