あの日のあとで２｜リアクション

あの日のあとで２

　寝子島中が真っ白に染まる、ホワイトデーのアートイベント。
　またたび市動物園での催しを楽しんで帰宅した遠野まほろは、
「いろんな動物さんを見たけれどやっぱり今回はうさぎさんのぬいぐるみ……かな」
　と、愛用の裁縫道具を手に、ちくちくと新しいぬいぐるみ作りを始めた。
　ぬいぬい、と手を動かしながら、まほろは「そうだ」と思いつく。
　眠たげに見える黒の双眸に、ぱっと星のような光が散った。
「……青い目のうさぎさんを作ろう」
　思い浮かべるのは、動物園で共に時間を過ごした『彼』の顔。
　その人みたいな、優しい目をしたうさぎさんがいい。
　青い目にはどんなパーツを使おう？　なんて考えたら、心が弾んだ。
「その子をつくったら……お友達のアンゴラうさぎさんのぬいぐるみも作りたいな」
　ちくちく、ぬいぬい。
　慣れた手際で、そして慈しむような手つきでぬいぐるみを作っていたまほろだったが、
（……彼がわたしをぎゅっとしたのは）
　と、ふと、その手が止まった。
（私がぬいぐるみさんをぎゅっとするのと一緒の気持ち、なのかな……）
　動物園での出来事を、思い出す。
　沢山の動物がいるふれあいコーナー。
　うさぎ達が見守る中での、あの、優しいハグ。
　温もりの余韻が、まだ身体に残っているような気がした。
（よく考えれば家族以外にぎゅっとされるなんてなかったから……）
　思い返せばちょっと恥ずかしいかもしれないと、まほろは頬をぽっと朱に染める。
　火照る顔をぷるぷると振って、まほろは慌てて縫い針を動かし始めた。
　ぬいぬい、ちくちく、ぬいぬい。
　縫製を進める合間、ぬいぐるみ用のパーツやボタンが目に入る。
　その中、澄んだ青の煌めきに、まほろはまた手を止めた。
　心はまた、動物園へととんでいく。
（……でも、嫌なんかじゃないし……）
　それに、彼のぬいぐるみさんの代わりになれるならそれはそれでいいかもしれない。
　なんてことを、まほろは思うのだ。
　だって、彼にとってそれが大事なものなのを、まほろは知っているから。

「……同じ様に大事にしてね？」
　呟いて、まほろは再び頬を熱くした。
　ちくちく、ぬいぬい、ちくちく、ぬいぬい。
　やがて完成したうさぎのぬいぐるみは、青い目でまほろを見つめる。
　傍らのアンゴラうさぎのぬいぐるみに柔らかく寄り添って、とても優しい眼差しをして。
「……また遊びにいきたいねぇ」
　声を零せば、射し込む光に、うさぎのぬいぐるみの青い目が淡くあたたかな光を帯びた。

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