ダイエット！　フツウ体重の危機！｜リアクション

ダイエット！　フツウ体重の危機！

○いつもの修行

「３０キロ太った？」
　御剣刀もまた、信じられない現実に目を疑っていた。
「参ったな～最近練習頑張ってたから筋肉が付きすぎたかな」
　そう言う刀の口調はどこか棒読みだった。
「筋肉重いからな～、筋肉尽きすぎてムキムキになると身体のキレがなくなるからちょっと絞らないと」
　色々な物から全力で目を逸らして遠い目になっているのだった。
（また神魂かよ、いい加減にしろよ！　痩せる、意地でも痩せてやる！）
　いろいろダイエット方法を考えてみる。
（食事制限……はしたくないな。腹が減っては戦ができないからな）
　剣術を極めることを目標とし、よく動きよく食べる大食らいである刀である。
　食事の量を減らせる気はしなかった。
「まあ結局の所、何だかんだで適度に身体に不可をかけるようにしてる普段の練習量を増やすのが一番だよな」
　と【刃引き刀】を持って寝子島神社の境内へ向かう。
　この刃引きされた居合刀は剣術の練習用としてフリマで買ったものだ。
　日本刀を作る材料、製法で作られたため重さ、強度は同じであると言う。
　刀は先ず準備運動を済ませて短距離ダッシュを繰り返す。
　ダイエットのためだけではなく、瞬発力を鍛えられる。

　真境名アリサは手足に重りをつけ、お腹に振動するベルトを巻いて旧市街をウォーキングしていた。
（少しは体重が落ちた気がするけど、まだまだよね）
　寝子島神社にやってくると、見覚えのある少年がいた。
　太った体を見られるのは気まずいが、この身体では隠れることもできない。
（あ、旧市街で会うお姉さん）
　刀のほうでもアリサに気づいたらしく目礼してきた。
（お互いさまかしら）
　刀の体型を見たアリサは少し気が楽になった。
　刀は腕立て伏せや腹筋、スクワットを始めた。
　それものんびりではなく、けっこうな速さで繰り返す。
「は、速い……」　
　思わずつぶやいたアリサに刀は言う。
「さっきのダッシュと同じく、主に瞬発力を鍛えるトレーニングだ」　
「ダイエットのためじゃないの？」
「基本毎日朝晩やってることだから」
「……毎日二回？！」
　驚くアリサに構わず、刀は刃引き刀を上段から振り下ろし素振りをする。
「……すごいのね。素振りは何回？」
「俺は一定の回数をこなすんじゃなくて、身体が適度に疲れるまで全力で素振りをするんだ。常に自分の全力を越えたいから」
　これだけの運動をすれば確実に痩せられるだろう。
　太っているとはいえ、真剣に修練に打ち込む少年の姿は魅力的だった。
　自分も負けていられない、とアリサは気を引き締める。
（ダンスだけじゃなくボクササイズも効くかもしれないわね）
「それじゃ、お互い頑張りましょう」
　アリサはジョギングでその場を去っていった。
（店に出られるレベルまで痩せれば、視線を感じることでシェイプアップできるはず）
　あの少年の真似はできなくても、アリサにはアリサのダイエット方法があるのだ。

　素振りを終えた刀は、身体の動きを鍛える為に剣術の型を繰り返していた。
（刀を振るう軌道がしっかりしていないと威力が出ないからな）
　それを終えたら仮想の敵を立てての立ち会いだ。
（さっきのお姉さんが帰っていてよかった）
　人が居ない状態での立ち回りは端から見ると間抜けなのだ。
　だがイメージトレーニングとして有効な練習方法だ。
「これでどうだ！」
　気合一閃、仮想の敵が倒れる姿をイメージする。
「うん、大分汗をかいたな」
　身体が軽くなった気がする。
　満足しつつ、疲れた刀は、なぜか目の前に現れた甘そうなケーキに手を伸ばした。
「……ダメじゃん！」
　頬張りながら気づく刀だった。
　
　

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