ダイエット！　フツウ体重の危機！｜リアクション

ダイエット！　フツウ体重の危機！

○寝子高にて

　八神修は寝子高で突然異変に気付き、テオの声を聞いた。
「また、神魂か」
　溜息をつく。
（野々が誰かに正月太りとか言われたのだろうか……）
　教室にはののこの姿はないので、確かめようがない。
「何が何でも元に戻らねば」
　体力作りの努力が実り、やっと人並み体力がついてきたところなのだ。
　この重い身体ではそれも台無しだ。
「校内探索して、痩身に使える物を確保しよう」

　保健室を覗くと、見慣れないものがあった。
「ベルトか？」
　説明書を読むと、電気刺激で筋肉を動かす器具だった。
「よし、これを着けて行動しよう」
　理科室に行くと、痩身薬と書かれた瓶があった。
　成分表示を見ると主成分はオルリスタットと書かれている。
　タブレット端末で検索してみた。
「食事制限は一切せずに、中枢神経系に作用せずに肥満治療を行うことが可能、か」
　更に臨床効果を調べる。
「アメリカでは6割の効果を上げているようだな」
　納得して、修は痩身薬を飲んだ。
「そういえば、先日ＧＬＰ－１について読んだな。痩せている人に共通して多く分泌されるホルモンだとか」
　ふと思いつき、そのままタブレットで検索する。
「なるほど、血糖値の急上昇を防ぎ脳の満腹中枢を刺激するのか」
　分泌を促す食べ物を思案するが。
「食物繊維、青魚……食生活は健康に大事だが、即効性はないな」
　唸った修はふと我に返る。
「はっ！　調べ物に没頭してしまった！」
　修への誘惑は勉強だった。
　食べ物なら意志の力で食べないことができるが、無意識に湧いてくる知的好奇心を意志の力で止めるのは難しい。
　体を動かしてカロリーを消費することなく、頭だけ使って糖分が欲しくなってしまう。
「身体を動かさなくては」
　修は理科室を脱出した。
　と、廊下に貼り紙を見つけた。
「図書室に新規入荷した本の告知だな。科学雑誌の最新号が入ったのか」
　自然に図書室に足が向く。
（特集は何だろう）
　気がつくと雑誌を開き、手にとって読んでいた。
「はっ！　いかん！」
　またもや誘惑に負けてしまった。
「体育館でランニングマシンを使うか床を走ろう」
　決意した修は体育館へ向かった。
　

　そのころ寝子高女子トイレでは。
「やだー！　何この体！？」
　鏡の前で雨寺凛は絶叫した。
　なんと、凛の体は大玉転がしの玉の様にころころまん丸になっていた。
「恥ずかしくって人前に出れないよ！　確かに寒いのは苦手だから休みの日とか篭りがちだったけどこんなに太るなんてありえないよ！？」　
　切り分けられた世界にいるのは体重が増えた者ばかりだったが、こんなにコミカルにまん丸になっているのは珍しいようだ。
「は、恥ずかしいよぉ……！　と、とにかく痩せなきゃ……」　
　顔を覆った凛だが、それでは体は隠せない。
「ウォーキングから始めてみるかな……と言っても動くのもやっとだよ……よいしょっと……」
　凛はよたよたと昇降口へ向かった。
「とりあえずグラウンドまでは行けるかな……きゃっ！？」
　凛のコロコロした体は何かにぶつかり、大きくバランスを崩した。
「わーっ！？　体が転がっちゃうよー！？」
　転がりながらいろんな物や人にぶつかり、まるでピンボール状態だ。
「だ、誰か止めて～！」
　幸いジャージ姿だし、その脂肪のおかげでケガをすることはないが、どこまで転がっていくのか？