ダイエット！　フツウ体重の危機！｜リアクション

ダイエット！　フツウ体重の危機！

○体が重い！

　旧市街のはずれ。
　いつもポジティブ、フットワークの軽い宇津野京だが、その朝は様子が違っていた。
「お、起きたら体が、重い……」
　体重計に乗った京は目を疑った。
「って体重が、なななななじゅう！？」
　ちょっと、いや、かなりやばいよ！？
　気がつけば、なんというか体全体がボリューミーに変貌していた。
（そんな、これは夢？）
　頬をつねる代わりに、ふに……ふに……と所々体を揉んでみた。
（うわぁ、柔らか……気持ちいかも……）
　癖になりそうな感触に、ついひとしきりもみもみして、ちょっと顔が上気する京。
「はふぅ……」
　そこで我に返った。
「いやいやいや！　こんなことしてる場合じゃない。痩せなきゃ、ダメッ！　これじゃあ、モトクロス厳しいよ……」
　バイク好きの京は幼少の頃からのモトクロス好きだ。
　当然体重が増えればスピードが落ちるし、バイクに負担がかかることになる。
「と、とりあえず着替えっ！」
　しかしこれならなんとかなるかと取り出したジャージも。
「ジャージ、きっつ……」
　ジャージ姿もパツパツだ。かなり先行き不安な状況である。

「こういう時は……トレーニングあるのみ！　がんばる！　とりあえず、自転車で走り込みしよう！」
　と言いつつ愛用のマウンテンバイクにまたがろうとするが。
「よいしょ……っと！？　あわわ、ダメだ、足が上がらない……」
　足が短くなったわけではないはずなのに、余分な肉は確実に動きを妨げていた。
「うぅ……しょうがないから、サドルを下げて……と。よし、これで……」
　無事乗れた、と思いきや。
　またがった瞬間にググググ……と音を立ててサスペンション（緩衝装置）が縮んだ。
「あぅ、こりゃ大変そうだなぁ……」
　先が思いやられるが、頑張るしかない。

　シーサイドタウンの自宅で、寝子中二年のかわいく可憐な加藤戦乙女は衝撃を受けていた。
「ちょっと待って、待ってちょっと！　あり得ないんだけどぉ！」　
　戦乙女が見つめているのは足の下にある体重計の数字だ。
「３０キロ！　３０キロてっ！」
　小柄な戦乙女は普段の体重が３０キロ代だ。
　それが３０キロ増えているのだから大変な事態だ。
「か、かわいいかわいい乙女ちゃんがこんな事態に今まで気づかなかったなんてまさかの失態……！」
　頬を押さえて身をよじり、こんなときでも可愛いポーズを忘れない。
「いや、でも毎日毎日鏡は何時間も眺めてるし、今だって」
　すぐそばにある鏡に映る自分を見つめる。
「ほら、いつもと変わ――ってるような気がしないでもない美少女が鏡の中にいるし」
　それは、確かにふっくらしていたが。自分の顔が大好きな戦乙女は微笑んだ。
「あはっ、やっぱり乙女ちゃんかわいい！　ちょっとふっくら要素もアクセントに変えちゃう脅威の可愛さ！　これは気づかない訳だね！　流石乙女ちゃん！」
　思い切り可愛いポーズを取り、いつもどおり自分の可愛さに酔いしれる戦乙女だったが。

「……で、でも体重が増えてるって事実がもうなんかすこぶる可愛くないよね。乙女ちゃんに似合ってないよね」
　ナルシストの戦乙女、やはり現実からは逃げられなかった。
「――痩せよう。痩せなきゃ。痩せなければぁ！」
　戦乙女の笑顔が消えた。
「そうと決まればダイエットプランを組まないと……」
　戦乙女はぶつぶつつぶやき始めた。
「まずは三食のバランスをダイエット用に調えてもらうようママに頼んで……（ぶつぶつ）
　食後の運動はウォーキングと、あと筋肉がつかないように……（ぶつぶつ）
　恥ずかしいから、運動で外出する時は顔が分からないよう……（ぶつぶつ）
　テオによって世界が切り分けられていることには気づいていない戦乙女である。
　ダイエットもだけど、勿論美容のことも考えて……（ぶつぶつ）」
　しかし鏡に目をやった戦乙女は再び笑顔になる。
「はっ、眉間にしわなんか寄せちゃだめだめ♪　だって乙女ちゃんの可愛さが減ったら全世界の損失だもの。努力も可愛くだよね☆」
　そして、どこかへ向けてナレーションする。
「こうして、乙女ちゃんの厳しくもかわいい日々が始まったんだよ！」

このページにイラストを設定する