――月華世界・冥晶宮
「これはどういうことだ、刹弦(せつげん)!」
闇の中で目を覚ました
後木 真央が最初に聞いたのは、鋭い若者の声だった。ぼんやりした頭のまま辺りを見渡せば、未だ見知らぬ場所のベッドのような物の上に転がされている状態のままである。
「どういう事も何も、呪皇様への供物を持って参った次第で」
真央は、聞き覚えのある声に耳を傾ける。自分が倒そうとした男、刹弦。大切な先生を連れ去った存在は、次に自分をさらい、『呪皇』への『供物』にすると言っていた。
(くもつ? もしかして、真央ちゃんたちすっごくピンチなのだ?)
真央が混乱していると、ふわり、ときれいな手が真央の髪を撫でた。おきていることを悟られぬよう動かないでいると、刹弦は無表情になっていた。
「我々の行動源である負の感情。その強さを感じ、ちょうどいいと思ったのだ。私に尊敬する師を連れ去られ純粋に殺気を向けてきた娘……実に愛らしくて生贄にふさわしいではないか。そう思わぬか、燈耶(とうや)?」
燈耶と呼ばれた若者は、血のように赤い眼と艶やかな黒髪が特徴だった。朱色の衣を纏った彼は背中から漆黒の翼を生やし、まるで烏のように見える。
対面する刹弦は白い髪を揺らし、無表情でたたずんでいた。だが、金色に変色した眼が興奮状態を表している。よく見れば、鱗が真っ黒に染まっていた。
「異界にある『ネコシマ』とかいう場所から来た客人で、神から毀れ出た炎を抱く存在と聞く。そして、青龍族の王も一緒だ。呪皇様もお喜びになるだろう。なんせ、300年ぶりの贄だからな」
真央は刹弦の様子からいやな何かを感じ、背中に冷たい汗が流れた。よくみれば、自分と同じようにつれさらわれた面々が、ベッドのような物の上に転がっている。そして、その奥。一際豪奢で大きな寝台に青龍族の王である藍紗(あいしゃ)もまた、寝かされていた。
「考え直せ、刹弦。呪皇様は、寝子島の住人達が我々の無念を晴らしてくれるのではないかと期待している節もある。慎重に相手をしろ、とお達しがあったはずだ」
燈耶の言葉に、刹弦はわずかに笑った。それは、喜びと怒りがない交ぜになったようで、真央は複雑な顔になる。
「それがな。先ほど、呪皇様にお伺いを立てたところ、お喜びになったぞ。なんでも、『貰火』の見本を欲しくなっていたらしくてな?」
真央は、いやな予感がしてならなかった。『貰火』つまりは『もれいび』の見本を、敵の親玉は欲している。ということは……?
(もしかして、真央ちゃん……解剖とかされるのだ? そうじゃなくても、呪皇とかいうのに連れて行かれるのだ?)
どうしようか、と考えていると、刹弦はどこからとも無く書状を取り出し、それを読んだ燈耶は思わず目を見開き……何かを悟ったような顔になった。
「わかった。陛下の命令ならば従おう」
彼の言葉に、刹弦は静かにうなづく。だが、このとき。真央は燈耶が何を考えているか、まったく思いつかなかった。
――月華世界・雲の国
つれさらわれてしまった面々を取り戻すべく、残された者たちは準備を整えていた。
志波 武道はその1人で、ちらり、と東のほうをみやる。
藍紗は贄姫となる、と言ったがあの後武道たちや神官たちによって諌められた。彼女は他の王族に相談する、と言って退出して以降、姿を見せていない。
(なんだか、いやな予感がするな……それに……)
浚われたメンバーは、皆『もれいび』だったような気がした。もしかしたら、「ひと」も混じっているかもしれないが、武道の記憶が正しければ、彼らは「もれいび」だった筈だ。
「……こんなことになるとは……」
白虎族の王、白鋼(しろがね)は申し訳なさそうに武道たちを見る。そして、彼は傍らに朱雀族の姫、華夜(かや)が控えていた。
「兄上は今、祭事を執り行っております。故に代理としてまいりましたわ。今回は皆様の補佐につきますの」
華夜はそういうと、従者から何かを受け取る。それは、淡い黄色の石で出来たバングルのようなもので、淡い光に包まれている。
「これは、月長石に天狼族の『浄化の光』を与えたものだ。これで影の魔物の力をやわらげてくれるはずだ。刀殿のアイデアから生まれたもので、まだ試作品だが……」
その言葉に、
御剣 刀は目を丸くした。確かに彼は過去に1つ提案していたが、このようになろうとは……。
「使いやすそうだね! 少しはこの戦いも楽になるかもしれない!」
「俺達でつかっていいのか?」
武道と刀が手にとって見ると、ほのかに暖かい。身に着けてみると、少しだけ心が軽くなったような気がした。
集まった寝子島の住人達も装着し、そろそろ冥晶宮へ向かう時間となったが……藍紗はなかなか来ない。
「藍紗さんの応援要請でこちらに来たのが、白鋼と華夜なのか?」
刀がそれとなく問いかけると、華夜がうなづいた。
「彼女との打ち合わせはさっき終わったの。身支度を整えてくる、と言っていたけれど……」
華夜が不安げにつぶやいたその時、神官の1人が、藍紗が姿を消したことをみんなに知らせた。
冥晶宮周辺には、影の魔物の群れがはびこっている。彼らを統率しているのは、黒い翼を背負った若者。燈耶は、周囲に黒い炎の玉を浮かばせながら、小さくため息を吐いた。
「呪皇様の命令だ。ここに向かってくる寝子島からのマレビトを捕らえよ」
はたして、一同は藍紗と仲間を助けることができるのだろうか?
菊華です。
今回はお祭の予定でしたが、ガチバトルです。
もう一度いいます。ガチバトルです。
フラグが『漆黒の進撃・桜花寮篭城戦!』にて成立した事により、明確な敵が判明。
それに伴い単発シナリオ3つが発生しました。
そして、その3つ目にて事件がおきました。
※このシナリオは『<月華>風花は、白く冷たき針』リアクションの最後から2、3時間後を想定しております。
前回からのシナリオ参加者さん
・囚われているPCさんを除き、そのまま残っていた皆さんです。
傷はある程度回復しております。(救援組)
・囚われているPCさんは武器になるようなものを奪われています。
ろっこんの使用は可能ですが、注意しなければ刹弦に雪の力を
使われるかもしれません(囚われ組)
今回からの参加者さん
・白鋼からのメールを受け取って参加する(救援組)
・実は白木と硝子の宮にいて、巻き込まれていた(囚われ組)
上記2つのどちらかをお選びください
前回参加して今回参加しなかった方
・囚われている場合:静かに救援を待っていた事になります
・囚われていない場合:後方支援として、町に残った事になります
概要
影の貴人が1人刹弦が、暴走。
数名の『もれいび』を連れ去りました。
責任を感じた青龍族の王、藍紗(アイシャ)が自ら『贄姫』になるべく
交渉に行きましたが、刹弦に囚われたようです。
その後呪皇から正式に命令を受け、捉えた『もれいび』たちと藍紗を『贄』にしようとしています。
今回は
・藍紗を救出する
・儀式を壊す
・刹弦と対峙する
・冥晶宮に突入する
・燈耶と対峙する
・呪皇について探る
などの行動をとることができます。
PL情報
呪皇は、『もれいび』に興味を持っています。
浚われたPCさんは殺されることはありません。しかし、手を拱いていると月華世界で『ろっこん』の使用ができなくなります。
また、藍紗は放っておくと、呪皇に命を奪われます。
成功条件は
・藍紗が「生存した状態で」冥晶宮から出る(必須)
・刹弦を説得ないし無力化する(倒してもOK)
失敗条件は
・藍紗の死亡(これが成立した時点で失敗判定)
・刹弦の暴走を止められない
・参加PC全員が捕らえられる
です。
<救援組の現状>
現在は雲の国・蒼宮にて準備中です。
リアクション開始時は冥晶宮前に来ている状態になります。
皆さんの基本的な目標は
『影の魔物及び統率者の燈耶と戦い、冥晶宮に侵入して
囚われ組のメンバーと藍紗を救出すること』
になります。
影の魔物は基本、手足や関節、急所にならない部分を狙ってきます。
燈耶は黒い炎を操ってきます。この炎に触れると熱を奪われ、次第に
体が麻痺していきますのでご注意ください。
今回は援軍として白虎族の王、白鋼と朱雀族の姫、華夜が一緒に
戦ってくれます。
アクション冒頭に「救援組」と記載してください。
<囚われ組の現状>
冥晶宮の中央にある礼拝堂に用意された寝台の上にいます。
リアクション開始時はその部屋からのスタートで、祭壇の上で藍紗が眠っています。
刹弦は呪皇の元に藍紗と皆さんを送るべく儀式の準備をしています。
PCの皆さんは束縛はされていないので自由に動けます。
礼拝堂の外に出ることも可能ですが、刹弦に見つかると束縛される可能性があります。
ちなみに。
儀式が始まると薄暗くなり、時間が経過するごとに室温が低くなっていきます。
皆さんの基本的な目標は
『藍紗と共に冥晶宮を脱出し、救出組と合流する』
ことになります。
アクション冒頭に「囚われ組」と記載してください。
<冥晶宮内部>
玄関から入ると、氷付けとなった神官たちが通路の両側に置いてあります。
まっすぐ進むと礼拝堂です。
通路の両側に歴代の王族が眠る納骨堂があります。
鍵は開いていますので、隠れる場所があるかもしれません。
礼拝堂から右側は神官と巫女たちの生活スペースにつながっていますが、扉の鍵があいていません。ここの鍵を壊す、ないし、あけて奥へ進むと裏門へ行くことができ、脱出に使えるでしょう(但し庭に影の魔物がいる可能性があります)。
礼拝堂から左側は倉庫です。扉の鍵は開いていますがあまり広くありません。
探せば聖水が入った瓶を見つけることができるかもしれません。
登場NPC
*今回登場する影の貴人
燈耶(とうや)
黒い翼を背負った、生真面目そうな若者です。
朱色の狩衣を纏い、黒髪を肩辺りで一つにまとめています。
黒い炎と影の魔物を操るようです。
(PL情報)
今まで出ている<月華>関連依頼にて彼に関連のあるNPCが居ます。
その人物の話題を出すと取り乱させる事が可能です。
刹弦(せつげん)
白い髪と女性と見まごう美貌の青年です。
現在は暴走状態なので肌に黒い鱗が出現し、目が竜のような状態に。
トラウマとか突かれた結果暴走しました。
(PL情報)
現在は物理攻撃を「吹雪になる事」で防ぐ状態です。
落ち着かせないと、龍となってしまい雲の国を攻めます。
そしてPCさんたちを呪皇のもとへ運ぶでしょう。
今回の協力者
華夜
朱雀族の姫で、今回はPCさんと行動します。
炎による攻撃を得意とします。
白鋼
白虎族の王で、今回はPCさんをサポートしてくれます。
ナイフを得意とします。
華夜と白鋼にやって欲しいことがある場合はアクションに記載して
いただけると幸いです。
高野有紀
寝子高で体育教師をしている女性です。
今回は後方支援として助けてくれます(雲の国で待機しています。アクションでなにかあれば同行してくれるでしょう)
これまでの月華シリーズ
読んでなくても問題なくご参加いただけますので、ご安心ください。
1話完結のこともあれば、前作参加者が優先される明確な続き物のこともあります。
・月夜に囚われし姫君を救え
・トワイライト・フェアリーテイル ―逃げ出した姫―
・ふわりふる真珠、月の都の異邦人
・トワイライト・フェアリーテイル ―鳥篭の姫―
・狼は九夜山に吼える?
・漆黒の進撃・桜花寮篭城戦!
・<月華> 宵闇邂逅 ~それはフツウを壊すモノ?~
・<月華>トワイライト・スターダスト ~甘い星は島を蝕む~
・<月華>風花は、白く冷たき針
重要:キーワード補足
*影の貴人
生前の姿を保った人型の魔物です。幾分か理性的な行動もとれます。
(PL情報:生前の記憶は怨嗟などにより歪んでいます)
*冥晶宮
月華世界にある各国の王族の霊廟です。基本的に遺骨が納められています。
また、礼拝堂があり基本的に王族であればいつでもお参りが可能です。
普段は神官や巫女たちによって管理されています。
*贄姫(にえひめ)
嘗て、怒れる神や祖霊への捧げ物として王族など高貴な身分の娘が差し出されていました。
現在は形が変わり、人々の苦しみや悲しみ、不浄を背負いそれらを清めてもらうべく冥晶宮に一ヶ月ほど篭って祈りを捧げるというものになっております。
その際、贄姫を神輿に乗せ、行く道に花びらを撒き、楽器を鳴らして送り出したときの様子を再現するのです。
(大昔、神への捧げ物になる事は大変名誉な事であった一方、悲しい別れには違いなく、その思いもくみながらこのような行列を行っていたそうです)
それではよろしくお願いします。
追伸
今回はアクションの最後に、以下のアンケートに答えてください。
Qもし、月華世界の種族になる事ができたら、何になりたいですか?
(白虎・朱雀・青龍・玄武・麒麟・天狼の6種類からお選びください)