――寝子島
真昼の街角。ふわり、ふわりと白い雪の華が咲く。それに魅入られたように、沢山の人が足を止め、その光景を見ていた。
真昼に舞う真っ白い雪の華。青空に映える柔らかな雪に、人々は思わず感嘆の声をあげたり、苦笑したりした。
だがその後。
雪を見た者の数名が、寝子島から姿を消した。
そのだれもが、雪を見た後、目に痛みを覚えていたといわれている。
――時同じくして月華世界・雲の国。
ふわり、ふわりと雪が降る。粉雪をまとって、美しい女性が町を歩く。だが、その姿に見とれた何人かの者が、ふらり、ふらりと女性についていく。
ふわり、ふわり、しゃなり、しゃなり。白いベールをかぶった彼女は、その隙間から赤い紅を差した唇をちらりと見せて微笑む。その度に、誰かが彼女についていく。だが、そのだれもが、目をこすりながらついていったという。
不思議な女性についていった人の後を追った若者の話によれば、
「荒野に、美しい白木と硝子でできた宮があり、そこに彼らは消えていった」
とのことだった……。その中には、異世界の住人であろう姿もあった、とも。
雲の国の王はそれを他の国の王族にも連絡し、異世界の住人達にも通達するのであった。
* * * * *
>現在:月華世界・雲の国
その日、
新田 亮は不思議なメールを受け取り、気がついたら心安らぐ香り漂う広間に座っていた。ふかふかの座布団に、御簾の下がった奥座敷。ぱっ、とみた様子は歴史の教科書でみた平安時代の貴族の家のようにも見える。
目の前には、中華風な衣装を纏った女性が立っている。顔を薄布で隠しているため、表情が分かりにくい。
「初めまして。私は青龍族の王、藍紗(アイシャ)と申します」
目の前に立った女性が、静かに口を開く。その声は鈴を転がしたようで、とても柔らかな声だった。
「このたびは、あなた方寝子島の住人がこちらの世界に連れさらわれた可能性があり、お呼び出しいたしました。ご説明しますと……」
藍紗の話によると、寝子島に降った雪は月華世界から降ってきた物なのだという。そして、調査の結果近頃雲の国で起こる事件の時に舞った雪と同じもので、人の心を操る効果を持っている、との事だった。
(そんな物を降らせて、どうするつもりだ?)
亮が不思議に思っていると、あたりに冷たい風が吹く。藍紗が表情を険しくし、寝子島の住人を守るように立ちはだかると、白い雪が渦巻き、1人の女性が……否。女性と見紛うほど美しい男性がたたずんでいた。白いベールをかぶった彼は、くすくす笑って口を開く。
「我が宮についてお話か?」
中性的な声が、静まった部屋に響く。彼は警戒する人々に悠然と微笑みながらゆっくりと口を開いた。
「我が宮の客人たちについては、手出し無用。彼らは皆、そこでの生活を楽しんでいる。幸せに暮らしているのだから、邪魔するのは、無粋ではないのか?」
彼はくすくすと笑いながら周囲を見渡し、流れるようなしぐさで背を向け……最後に、とつぶやいて振り返った。
「私は、影の貴人が1人、刹弦(せつげん)。
そなたらは、賢い存在であると信じているぞ?」
刹弦はそういうと、どこからとも無く吹いてきた風に掻き消えた。
「宮に行った人たちに手を出すな、か。ふざけた事を……」
亮は、ぐっ、と手を握り締めた。
* * * * *
――荒野の宮
刹弦が宮に戻ると、静寂の中、美しく着飾った美男美女が花をめでたり、硝子の破片で遊んでいたり、本を読んだりしていた。
庭は雪に覆われており、花々は氷付けにされている。また、木々には色とりどりの宝石の花が咲き、機械仕掛けの美しい鳥が歌っている。
刹弦は、満足げにその人々を見つめ……その中の1人に歩み寄る。それは、短く切った黒髪にスミレと組み紐細工の髪飾りを飾り、口に淡い色の紅を塗った
高野 有紀であった。
普段のジャージ姿とは違い、淡い紫の羽衣とすみれ色のチャイナ服がとても似合っていた。だが、その顔に普段の明るい笑顔は無い。表情そのものが無く、冷たい眼差しのまま宮の庭を見つめている。
「確か、ユキと言ったな。実に美しい……。いつまでも眺めていたいものだ」
刹弦はそういうと、そっと、有紀の髪を撫でた。
――静かな宮の中、とらわれの人々は何を思っているのだろうか……?
菊華です。
今回は不思議な雪の力による、お話です。
難易度:★★★★
概要
寝子島にて、真昼に降った雪を見た人間が行方を晦ます事件が発生。
時同じくして、月華世界・雲の国においても「雪を纏った女性」を見た人達が、彼女についていく、
という事案が発生しました。
調査の結果、上記にあった事件の人々が全員
「月華世界の荒野にある『白木と硝子の宮』に集まっている」という事がわかりました。
今回は
・白木と硝子の宮へ潜入し、とらわれた人々を助ける
・白木と硝子の宮内部から脱出する
・刹弦と対話する
など、色々な行動が考えられると思います。
事件解決へとむけて、思うが侭に行動してみてください。
舞台
★白木と硝子の宮
雲の国の外にある、荒野のど真ん中に出現した美しい宮です。
この周辺は雪と氷で覆われており、庭には氷付けの花々があります。
その他、木々には宝石の華が咲き、歌を歌っているのは宝石で飾られた機械仕掛けの鳥です。
中では、美しく着飾った男女が静かに過ごしています。
キセルを吹かす者、本を読む者、庭を見る者、硝子の破片で遊ぶ者……。
みな、表情がありません。
この中に高野先生も混じっています。
★白木と硝子の宮からスタートする人へ
こちらからスタートする事を希望する方は
・刹弦にとらわれている(感情が封じられている)
・自分の意思で潜り込んでいる(感情が封じられていない)
のどちらかを必ずアクション冒頭に記載願います。
この中に居る人達は、皆美しく着飾っています。
中華的な衣装の人も居れば、和風な衣装の人も居ます。
中には和ロリ、華ロリな衣装の人も。
登場NPC
藍紗(アイシャ)
青龍族の王を勤める、妙齢の女性です。
薄布で顔の半分を覆っているため、口元でしか感情を読み取れません。
刹弦(せつげん)
影の貴人が1人で、ぱっ、と見女性ですが男性です。
美しいものを好み、荒野に建てた白木と硝子の宮でお気に入りを愛でながら過ごしているようです。
(PL情報:人々を雪で操り、連れ去った犯人です。
彼は女性になる事ができるほか、雪で人の感情を封じることができます)
高野 有紀
寝子高で体育教師を勤める女性です。雪によって操られ、宮にやってきました。
今は美しく着飾られていますが無表情です。
(PL情報:雪の所為で心が凍りつき、表情が無くなっています)
これまでの月華シリーズ
読んでなくても問題なくご参加いただけますので、ご安心ください。
1話完結のこともあれば、前作参加者が優先される明確な続き物のこともあります。
・月夜に囚われし姫君を救え
・トワイライト・フェアリーテイル ―逃げ出した姫―
・ふわりふる真珠、月の都の異邦人
・トワイライト・フェアリーテイル ―鳥篭の姫―
・狼は九夜山に吼える?
・漆黒の進撃・桜花寮篭城戦!
・<月華> 宵闇邂逅 ~それはフツウを壊すモノ?~
・<月華>トワイライト・スターダスト ~甘い星は島を蝕む~
それではよろしくお願いします。