『MIBU』と書かれたシンプルな掛札のかかった扉がある。
5階、エレベーターから出て左手一番奥。
5階、東階段を上って目の前。
中に入ると、広い間取りの玄関と、その先に続く廊下。廊下の先にはこれまた広いリビングが。
花を生けた花瓶、絵画、各種インテリアが置かれたその部屋は綺麗に整えられており
埃ひとつない、とは比喩にもならないほど。
玄関前の廊下から分かれる客間、その部屋の一番奥にあたる寝室ですら、日々の掃除を怠ってはいない。
そう、『彼女』の性格からはとても想像がつかないほどに。
キッチンから香ばしい匂いがする。
その匂いの主は、彼女の作ったクッキー。もはや、彼女の日課となっているものだ。
来客があれば、気だるそうに玄関へと向かう。意外にも彼女は綺麗好きだったのだ。
「あぁ、いらっしゃい……ふあぁ…ねむ」
―――尤も、その身嗜みを除けば、だが。
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壬生 由貴奈の個人部屋トピックです。
原則、非入居者の方を含めどなたでも入室可能です。
彼女が何かしらのんびりやってますので、ご自由にお入りください。
優しいねぇ、ねむねむは。
連絡する術も無い以上、うちにできることはアイツが死んでないことを祈るだけ、ってね。
……この話、他言無用でよろしくね。辛気臭い話する奴って言われたくないし、自慢したい訳じゃないし。
本来、人前で話すようなことでもないんだけどねぇ……まったく、どうかしてる。
(髪をわしゃわしゃと掻き)
まぁねむねむの心遣いは嬉しいよ。ありがとうねぇ(にっこりと微笑み
でも、あいにくと一人が寂しいって思うことはなくなっちゃったかなぁ。
今は一人暮らしだし、本土に居た中学の頃も……。
いけない、また変な話するとこだった。
……あぁ、コーヒーありがとね。
(注いでもらったコーヒーを一口)
それ以上、言わなくて大丈夫だよ・・
辛い話をさせてしまったね。ごめんなさい
僕がその人の代わりになる事なんてできないかもしれないけど
こんな僕でもクッキーの毒見くらいはできるからさ・・
だからもし、一人でいるのが寂しくなったその時は僕を呼んでよ。
僕はやっぱり、由貴奈さんに笑っていて欲しいからさ
できる限りのことはするつもりだよ・・
・・とりあえず今日は飲もう。とことん付き合うよ。
ただし未成年だから酒じゃなくてコーヒーなのはごめんよ。
(笑顔を作り自分と彼女のカップにコーヒーを注ぎ)
どうだろうねぇ……年が同じっていうのは言ってみれば当たり前のことだしね。
うちが中学3年のときの二つ下の後輩だから、もし寝子島に来ているとしたらねむねむと同じ学年ってことになる。
けど、1年生の名簿に、うちが知ってる名前は無かったんだよねぇ。
しっかし、アイツの話ねぇ……。
絡んでるときは楽しくて面白いことばっかり。それにとんでもないバカだったから、変なことしては笑ってたよ。
一緒にいると退屈しなくて、ずっと一緒にいたく……ってなんか語弊があるなぁ。
そういう意識を持ったことはなかったと思うんだけど…うーん。
……まぁとにかく、面白いヤツだったよ、いろいろとね。
(ミント味のクッキーをもう一枚、口に放り込む)
でもね、『起きてしまった』事が事だけに、今となっちゃその思い出を振り返るのが辛いくらいだよ。
―――アイツは、今もまだ眠ったままだろうから。
(言葉を続けようとして、思わず口ごもる)
・・・いや、忘れないでおくよ。
仮にその子が寝子高に通ってないにしても、寝子島には住んでいるかもしれない
僕と同い年ってのも・・どこか引っかかる気がするしね。何となくだけど
(柄にもなく真剣な様子で考えた上で、顔を上げ)
よかったら・・その後輩さんの話。もっと聞かせてくれないかな
どんな些細な事でもいいからさ。
(けろっとした態度で舌を出して)
別にぃ? ねむねむが思ってるほど深刻には悩んじゃいないよぉ。
……まぁ、単純に言ってしまえば、『待ち人来たらず』ってところかなぁ?
こっちに…寝子島に来る前、中学時代に面白いクソガキ…じゃなかった、後輩がいてねぇ。
うちを追って寝子高入る予定だったんだけど、いろいろあって学校に来れない身体になっちゃったんだよねぇ。
おまけに音信不通で、しょーがないからギリギリまで待ってみようかと思ってるわけ。
…そういえば、居たとしたらちょうどねむねむと同じ学年―――
(言いかけてかぶりを振る)
うちらしくもない、どーでもいいこと話しちゃったね。
こんなの聞いたって面白くもないでしょ?今の忘れちゃって。
留年するかどうか迷ってる、か・・
話を聞いた感じだと、進学ができないっていうよりかは
寝子高に残ってまだやりたいことが残っている・・そんな感じかな
(コーヒーを一口含み)
僕自身どこまで役に立てるかは分からないけど、
由貴奈さんがそこまで悩む理由、話せる範囲で構わないから話してみてくれないかな。
話してみたら気持ちが少しだけ、楽になるかもしれないし・・
北のとある地方には納豆汁ってのがあってねぇ。あれ、美味しかったなぁ……。
と思ってやってみたけど、汁物とお菓子はやっぱり訳が違うみたいだねぇ。
どうにも、難しいもんだね。
ん?進路?
(ピタリ、と動きを止めてソファに寄り掛かり、腕を組む)
……まぁ、いっか。
実際、ちょっと迷ってる。
って言うのも、大学へ進むか、留年するかってところ。
(口に入っていたクッキーを咀嚼し、飲み込む)
留年しちゃうのは簡単だけど、うちなりに葛藤っていうのがあってねぇ……。
納豆でお菓子を作るのは結構ハードそうだもんね・・
僕の後ろの人が水戸の納豆飴食べた時も微妙な感じ受けたらしいもの
(今度はミント味の方に手を伸ばしぱくりと)
うん、ミント味も美味しいや
にしてももうちょっとで寝子祭か、1年が経つのはあっという間だねぇ・・あ。
(一瞬聞こうか聞かないか迷った上で)
えっと・・そういや、由貴奈さんは卒業後の進路とか決まってるの?
やっぱりマタ大・・とかかな。
護身用って、誰かの口に捻じ込むこと前提じゃないの。
うちは食べれるクッキーを作りたいのであって、武器になるクッキー作るわけじゃないからねぇ。
いずれ、納豆味は却下だねぇ。作ってた時はいけると思ったんだけど……。
(続けてカレー味をもしゃもしゃ)
…ん、まぁまぁいいんじゃないかなぁ。甘い味以外のクッキーって実はあんまり作ったことなくってねぇ。
でもお店開けるっていうのは幾らなんでも買い被りすぎだよぉ。
商売にするには、いろいろと課題が多そうだけどねぇ……うち、経営者とか向いてないし。
まぁ、機会があれば寝子祭とかで出せるかもね。
ま、ある意味では大成功な感じだけどねぇ・・納豆味。
護身用クッキーとしては最良かも。何せ体にはイイ訳だし、味はともかくね。
それじゃ、僕はカレー味をいただこう
(薄赤色のクッキーをぱくり)
うん、こっちは全然美味しいや!!サクサクしたカレーパンみたいな感じ
これだけのウデあればお店でも開けるんじゃないの?(笑顔でもぐもぐ
……うーん、あんまり美味しくないかもって思ったけど、その通りだねぇ。
納豆味は失敗、と。
(ものすごく渋い顔で納豆味のクッキーを食べながら)
ふっふっふ、あんまり女の子をバカにしちゃいけないんだよぉ。
まぁでも、いきなり納豆味のクッキーを引くとは思わなかったけどさ。
ちなみに紫色がミント味、薄赤色がカレー味だよぉ。
(コーヒーを一口飲み、ミント味のクッキーをかじる)
…うん、こっちはいい感じ。
(あわててテーブルのコーヒーを手に取りクッキーを流し込み
ぷはぁ・・助かったァ。納豆は嫌いじゃないはずなんだけどねぇ
クッキーの甘味と納豆の独特の臭みの合わせ技にやられちゃった感じ。
由貴奈さんにはかなわないや・・参りました。
(笑顔でもう一口コーヒーを含みながら)
あれ、ねむねむって納豆苦手だったりした?
それはちょっと悪いことしたねぇ……はい、コーヒー入ったよぉ。
(コーヒーの入ったマグカップを2つ持ってきて、テーブルの上に置く)
……でも言ったじゃんか、色と味は必ずしも一致しないって。
安牌に見えるものほど、危ないものなんだよぉ。
ん!!んぁ・・飲み込めない・・(口を半開きで恨めしそうな目で)
こーひー・・コーヒーを早く・・(手をパタパタさせながら懇願しだし)
……それ、納豆味。
納豆を鉢ですり潰して、生地に合わせてみたんだよぉ。
練り合わせた直後、すごい色だったからちょっと工夫してそういう刺激的でない色になったんだよねぇ。
食べるの怖かったし、毒……味見してもらえてよかったよかった。(口笛吹き)
な!?そんな殺生な・・(3種類の味を聞いて動揺しながら)
それにしてもカレーとミントはまだいいとして、納豆は中々エッジの利いたチョイスだねぇ
どうしたもんかなぁ・・とりあえず一番まともそうな象牙色のやつを頂くね。(もぐもぐ
……むっ、それは一体どういう意味かなぁ?
まるでいっつもボケーっとしてるみたいじゃない。これでもシャキっとしてることくらいあるんだからねぇ?
そういう子には何味のクッキー作ったか教えてあげないよぉ。
さっ、どうぞ召し上がれ。味は3種類だよぉ。納豆、カレー、ミント味。
ちなみに、色で判断するとロクなことにならない……かもねぇ。(満面の笑み
(指をさしたクッキーの皿、そこには象牙色、紫色、薄赤色のクッキーが)
…味は保証しないから死んじゃっても文句は言わないでね。(ぼそり
気にしなくて大丈夫だよ。
むしろ、マイペースな由貴奈さんらしくていい感じ(くすりと笑みを浮かべ)
お、試作品かぁ。それじゃせっかくだしコーヒーと一緒に頂こうかな。
ちなみにその試作品とやらは・・どんな味なの?
悪いねぇ、こんな恰好で。ついさっきまで寝てたからさ。
迎える前に着替えておけばよかったかなぁ……寝ぼけてたから忘れてた。
なぁんだ、クッキー食べたかったらこの前帰るときに握らせとけばよかったねぇ。
残念ながら焼きたてはないけど……つい昨日の夜中、試作品作ったから食べてみない?
持ってくるついでにお茶でも淹れてくるよぉ。コーヒーでいいでしょ?
(ふらりとキッチンへと向かっていく)
ん?どうかしたの、由貴奈さん。あ・・
(服装が違うことに気づきドキっとしつつも、敢えてそこには触れず)
え~ゴホン、実のところ特に大事な用事があるって訳じゃないんだよねぇ
ただ単にまた由貴奈さんの焼いたクッキーが食べたいなって思ってさ
ぶっちゃけこのお菓子もポイントカードとか使って安く買えてるから
遠慮しないで食べていいよ・・(とかいいつつ自分もお菓子を頬張りながら