その鐘を鳴らせ　～異空間脱出～｜リアクション

その鐘を鳴らせ　～異空間脱出～

「んー、うまく当たんないなぁ」
　縄跳びにくくりつけた即席ブラックジャックは鐘に当たらず、青い影たちにぶち当たる。それでも彼らは諦めなかった。
（私なら、このsmallな身体を使って潜り抜けられそうデース）
　トワは混戦する中青い影の隙をついて潜り抜け、鐘の真下へとたどり着く。そして楓から借りたチェーンを振り上げる。
「let's ring the bell！　これでclearデス！」
　トワはチェーンを下ろす。しかし、かつん、と当たっただけで鳴らすまでには至らない。そんな彼女を狙い、青い影が振り返る。
「！　危ない！！」
　円が縄跳びを一振りし、青い影をなぎ払う。真白がどうにかトワの手を引いて下がらせるも、その背中へ爪が迫る。
「マシロ！！」
「トワ！　白！！」
　階段を駆け上がった楓がナイフを投げるも、間に合いそうも無い！　だが、その時。別の方向から来る少女の姿があった。

（埒が明かない）
　屋上に到達し、身を隠していた陽毬が青い影へと突貫する。傘を開いて突き刺し、影の伸ばす手をジャンプで避ける。他の青い影も彼女へと迫り、陽毬は後ろへと下がる。
　その隙に真白とトワは青い影の手から逃れる。変わりに楓が前に出、守るようにナイフを投擲する。
「私にはこれ以上の手が……！」
「大丈夫だ！」
　陽毬の叫び声に修が叫ぶ。彼は乱れ飛ぶ瓦礫を囮に砲丸大の石を鐘の真上に投げる。
「こっちだよ！」
　円が己の獲物で影の気を引いている間に、陽毬は別の建物へと飛び移る。円のろっこん『ブレイブハート』は危険な行動を自ら行えば行うほど彼女の運気を上げる。率先して前へ出れば影の攻撃は紙一重で円には届かない。
「下がって！　大きいのがくるわよ！！」
　紫が叫ぶと同時に、修が真上へと放り投げた石を荒めに『分解』する。降り注ぐ瓦礫が鐘にあたるも、少し揺らした程度だった。どうやら乱戦で目測を誤ったらしい。
「この……！」
　影が完全に気を取られている隙に、ジュストが枯れそうな声で鐘へと指をむけ、「BANG！」と叫ぶ。刹那、空気の塊が鐘を揺らすも、まだ足りない。
「くそっ！　今度こそ終わらせるぞ！」
　雅也が前に出、修から借りたシャベルを振り回す。青い影を寄せ付けない勢いで走り、それを踏み台にして彼は思いっきり鐘へとたたきつけた！

　――ゴーン！

　鳴り響く鐘の音。雅也は無我夢中でもう一度シャベルを振り下ろそうとするも、青い影に弾き飛ばされる。
「雅也！！」
　どうにか隙を作ろうと、ジュストがもう一度鐘へと指を向ける。喉が痛い。あと１度叫べばもう声が出ないかもしれない。それでも彼は精一杯息を吸った。
「BANG！」
　空気の塊は影を打ち、それによろけた影が再び鐘を鳴らす。雅也は楓に手を引かれて下がり、真央と紫が協力して大き目の瓦礫を投げる。
「行くのだ！」
「コレで、最後よ！！」
　２人の声が重なり、トワが祈るように手を組む。だが、瓦礫は途中で失速する。それに円が即座に反応した。
「いっけえええっ！」
　円は即席ブラックジャックでその瓦礫を押し上げ、鐘を狙う。それは綺麗な放物線を描き、澄んだ音を響き渡らせた。

「！　鐘の音だ！！」
　ボロボロの状態になった刀が、顔を上げる。大勢の影相手にろっこんが解けてしまった轟が、傷ついた体で大きな音を立て続けていた記士郎が、治癒のために舞い続けていた美咲紀が、響き渡る鐘の音に力が漲るのを感じる。
　三度目の鐘が鳴らされたと同時に、青い影はさらさらと光の粒になって天に昇っていく。それだけではない。街中のありとあらゆるものが光の粒になって消えていく。
「……終わったのですか……」
　青い影が消えていく姿を見上げ、記士郎が呟いていると陽毬が近くの瓦礫の上でそれを見ている姿が目に入った。

このページにイラストを設定する