星ヶ丘寮で優雅な一日を｜リアクション

星ヶ丘寮で優雅な一日を

☆☆☆　お出かけでヒエー！　☆☆☆

「今日も外に行こうかな？　いろいろ面白そうなものもあるし、外着もワンピース一着だけじゃ辛いから」
　広い星ヶ丘寮の一番はじっこ、奥まった部屋からミリティア・ディスティンは顔を出しました。
「っと、だれもいません、よね？」
　眼鏡を押さえ、廊下の左右を確認してそっとドアから体を出します。
　ワイシャツと短パン姿で、しかも髪はボサボサ。
（星ヶ丘寮は身分の高い方がおおいせいか、身なりや仕草に気を遣う方が……以前は多かったように感じましたので、何か言われそうで……）
　なので『見つからないように隠れて外出』という方法を取ることにしたのです。
　貿易会社社長の娘であるミリティアですが、寝子高に入学する際父に「立場は自力で掴み取るもの」と言われ、住処も無しに放り出される寸前でした。
「ある程度のボーナスはあげてもいいんじゃない？」と説得してくれた姉のおかげで入寮することができ、寮費は実家から払い込まれています。
（でもお小遣いとかはあまり貰っていないので……）
　それはミリティアの主観であり、一般のアルバイト給料くらいは貰っているのですが。
　星ヶ丘寮の敷地は広く、はじっことなると方向音痴の人なら迷いそうですが。
　ミリティアは長い船旅の経験のせいか、バランス感覚と方向感覚はしっかりしています。
「だいじょうぶ、やればできる……がんばれわたしっ！」
　無事エントランスにたどり着き、外へと一歩踏み出したのでした。

「おや、こんにちは。お出かけですかな、お嬢さん」
　執事と見える初老の紳士に声をかけられてしまいました。
「え……はい」
（しまった、見つかっちゃった）
　身をすくめながらミリティアは答えました。
　凝り性な性格ゆえに、午前中はどんどん掃除範囲が広がって寮の敷地を越えてしまった進です。
　その、優しくも厳しいチェックがミリティアを捕らえていました。　
「気温が下がってきているので、気をつけたほうがよろしいですぞ。ミニスカートよりはましですが、寒そうな格好ははよろしくない！」
「あ、あの、すみません……」
　そう言われても、これから戻って着替えなくてはならないのは困ります。
「ええと、帰りは暖かい服を買って着替えてきますので」
　苦しい言い訳をするミリティアに、進は頷きました。
　若者達の先に立って教え導くのが生き甲斐で、とくに言動は模範となるよう心掛けている進です。しかし。
「うむ、冷えは大敵ですからな。寒さで『ヒエー！』となる前にぜひご対策ください」
　残念なことにダジャレが寒い……とても寒いのでした。
　そして、進のろっこん『極寒駄洒落』が発動しました！
「……」
「ん、どうかされましたかな。本当に寒そうですぞ？」
　ダジャレのあまりの寒さに、ミリティアの脳が理解することを拒み、思考が一時的に停止してしまったのです。
「はっ、大丈夫です、失礼します～！」
　我に返り脱兎のごとく逃げ出すミリティア。
「な、なんだったのかしら……今のがオヤジギャグのパワー？」
　ろっこんに慣れていないミリティアにとっては、驚愕の経験となりました。
　
　その後、買い物してちゃんと暖かい服で帰ってきたのは言うまでもありません。
　