星ヶ丘寮で優雅な一日を｜リアクション

星ヶ丘寮で優雅な一日を

☆☆☆　家族との語らい　☆☆☆

　榛宮智は、画面の前でちょっと緊張していました。
　今日は離れて暮らす父親と久々にお話できるのです。
　ネット通話ですけど。
　実業家でいつも多忙らしい父親とは、１年に２，３回しかお話しする機会がありません。
　画面に映る父親の姿が映りました。
「元気そうだな」
「はい……お父様もお元気そうでよかったです」
（やっぱりお父様はすごい。オーラが違う気がして、ほんとに僕なんかの父なのかわからなくなる……）
　智は自他共に認める、とにかく気が弱い少年です。
　高校デビューはいじめられて失敗してしまい、ワンチャンに賭けて寝子島高校に転入してきたのでした。
　幸いこちらではいじめられることはありませんでしたが、学校自体があまりにも個性的だったりいろんな事件にでくわしたりで、これはこれで大変な日々です。
　
「そちらの学校では最近何があったのかな」
　貴重な時間を無駄にしないよう、あらかじめ、父に話すことは考えてありました。
「生徒会選挙で、選挙管理委員をしたんです。他の学校から不良さんが来たりして、大変だったんですけど……みんながしっかり対処してくれました」
　神魂絡みの不思議な事件はあまりお話できないけれど、このくらいならいいでしょう。
　と考えていると、父親が思いがけないことを言いました。
「なんだかちょっと大きくなったように見えるな」
「え？　たしかに身長は伸びたけど……」
　きょとんとする一人息子に、父親は目を細めて言うのでした。
「いや、そういう意味ではなく、少し自信がついたみたいだ」
「さ、さぁ……？」
「恋人でもできたかな？」
「恋人……！？　もう、それこそ知らないよ！」　
　からかうように言う父親に、智は赤くなりました。
（よくわからないけど、なんだかお父様は嬉しそうだ）　
　そんなことを思っていると、画面の外から父親を呼ぶ声がしました。
「すまん、用事が入ってしまった。それじゃ、元気でな」
　あっけなく通話が切れた後、画面に反射する自分の顔を智はしばらく見つめていました。

　気の弱さを自覚しながらも、
（将来父上の会社を継ぐなら変わらなくちゃ……！）と願い続けてきた智です。
「僕、変わったかな？」
　使用人に恐る恐る問いを向けてみました。
「はい、智様は最近お変わりになられました。フェンシングのお稽古の時に引け腰じゃなくなりましたよ」
「ええ、前に比べたらずっと物怖じしなくなられて」
　複数の使用人からそんな返事をもらった智は、それでも信じられなくて鏡を覗きます。
　天然パーマの金髪、そばかすの大人しそうな少年がそこに写っていました。
（相変わらずヘナっとしているようにみえる……）
「お父様はどこを見て自信がついたなんて思ったんだろう？」
（自分に自信なんて無いし、本当に変わってるのかなぁ……）
　智は考えます。
「……はぁ、確かに寝子島でいろんな事件に出くわして……ドッキリ耐性は付いちゃったかも……」
（知らない人と戦ったり……犬になったり……この島はありえないことだらけだ）
　それが自信につながったのだとしたら嬉しいことです。

　けれどやはり、智は思うのでした。
（でも物騒な話はもう無いといいな！　命がいくらあっても足りないよ！）　　

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