ビブリオバトルッ！～文系異種格闘技戦～｜リアクション

ビブリオバトルッ！～文系異種格闘技戦～

● 森蓮のオススメ『なぜコミュニケーションはうまく伝わらないのか』

　続いて、坊主頭の爽やかな少年が登壇した。森蓮である。
「私は家族療法カウンセラーが書いた『なぜコミュニケーションはうまく伝わらないのか』という本をご紹介します」
　コミュニケーションというのは難しいものです、と蓮は観客に問いかける。
　得意な人もいるだろうが、「私コミュ障だから」なんて思わず言ってしまう人もいるのではないだろうか。それでいてコミュニケーションが大事だということは分かっている。この理想と現実の乖離からか、興味深そうに顔を上げる観客――おもに社会人――もちらほらいる。

「たとえば、私がサンマさんに話しかけられたとします。私はサンマさんの言葉を注意深く聞かなかったり、彼が使った単語を知らなかったり、声の調子や強調に含まれるニュアンスをとらえそこなうかもしれません。

　サンマさんが送った内容を(A)、私が受け取った内容を(B)とします。
　私は私が受け取った内容(B)を過去の経験に基づいて解釈します。

　たとえば、受け取った内容(B)が称賛で、私がサンマさんは他人を褒めないと思っている場合、それを冗談と解釈するかもしれません。この解釈を(C)とします。

　私は私の解釈(C)に対して感情を抱きます。
　この状況で冗談を言うのは不謹慎だと感じるかもしれません。

　この不謹慎だという感情(D)に対して、私はさらに、感情(E)を抱きます。
　不謹慎な態度に怒りを覚えるかもしれません。

　私が『自分は怒ってはいけない』という自分ルール(F)を持っていれば、この感情の感情(E)を「私を怒らせないでください」という内的な応答(G)に変えるかもしれません。

　私は(G)に対して、『怒りを口で表現してはいけない』という発言に関する自分ルールで、発話(H)に変換します。黙って部屋を出て行ったり、非難するような目で見たりですね。

　今、言ったようなコミュニケーションのモデルが、この本の中で紹介されています」

　送り手（サンマさん）の発言(A）は、最終的に受け取り手（森蓮氏）の発話(H)を引き出す。
　この(H)が、今度はサンマさんへとフィードバックされる。
　変換に継ぐ変換が起こっており、サンマさんの発言(A）があるがままに受け取られ、望むような発話に繋がるというのは、もはや奇跡に近いことであることが、このモデルからはわかる。
　コミュニケーションが難しいのは当たり前だ。
　一方で、考えてもみて欲しい。人は時々の齟齬を大きくとらえてしまい、コミュニケーションが苦手だと思い込んでしまうが、多少の誤解などを含みつつも、むしろ、なんとなく会話が成立する場合のほうが人生の中では多いのではないか。
　そう考えると、逆転の発想で、人間とはなかなかに素晴らしいものではないだろうか。