ビブリオバトルッ！～文系異種格闘技戦～｜リアクション

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● 八神修のオススメ『チコと耳尻尾の国』

　最後に登壇したのは、若猫のブルーをお供にした八神修だった。
　彼が紹介したのは、いつも読んでいる学術書の類ではなく小説だ。
　老若男女関係なくとっつき易いだろうと考えたのだ。
「『チコと耳尻尾の国』と題されたこの本は、小学生のチコが動物めいた人達が暮らす世界に飛ばされて出会いと冒険の中で成長していく異世界冒険活劇だ」
　ありふれた題材だろ、と修は聞き手の心を先取りして笑む。
「なのに新鮮な驚きと面白さが有るから紹介したい」

　ストーリーを紹介する。
「小学生のチコが迷いこんだのはリスの村。チコはそこで、飼リスと同じ名のリス族の少年ナッツに助けられるんだ。登場人物も多彩だ。犬や猫など全員ケモミミでケモシッポ。だから耳尻尾王国というわけだ」
　そういって修はにこりとする。
　リスの村が暗闇に包まれる、というくらやみ事件のさなかに現れたチコは、村を救う救世主として、リスのナッツを道連れに、耳尻尾王国を旅することになる。
　立ち寄った犬と猫たちの村ではお祭りをしているのだが、犬と猫とのいがみ合いからトラブルが起こりドタバタの大騒ぎになる。また別の狼の村では、泥棒と間違われて追われる羽目になり、宝石盗難事件の解決に乗り出すことになったりもする。
　旅の仲間も徐々に増え、猫族の女盗賊や、庭師のニワトリじいさんなどが加わってゆく。
　一方、そんな冒険の背後で、ちらちらと見え隠れする鴉族の魔女の暗躍も見逃せない。
「こうして物語は次々畳み掛ける展開でテンポよく進む」
　けど、と修は突然声を顰め。
「世界が『おおくらやみ』に揺れた時、チコが呼ばれた理由も明かされる。そしてチコが決断する最後の大切な選択とは……！」
　視線を送ったのは、観客席にいた祥子・喜好親子だ。
　喜好が自分で読むのに、あるいは祥子が読み聞かせるのに、この本はちょうどよいだろうと修は思う。
「作者はここ寝子島の出身らしい。ファンタジーなのにとてもリアルな描写もあって、じつは作者が実際に体験したことなんじゃないかと思ってしまうような箇所もある。残念なのは、この作者は、この作品ひとつしか発表していないことだ。続きや別の作品があったら読んでみたいものだが……」
　にゃあと猫のブルーが同意するように小さく啼いた。
「ん、それはさておき、だ。読み終えたあと、温かい気持ちと、大きな勇気が湧いてくる本だ。……『おおくらやみ』やチコの決断は、是非本を読んで確かめてくれ」

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