ビブリオバトルッ！～文系異種格闘技戦～｜リアクション

ビブリオバトルッ！～文系異種格闘技戦～

● 宮祀智瑜のオススメ『花ちゃんとふしぎなまち』

　次に登壇したのは、旧市街は「宮祀青果店」の看板娘、宮祀智瑜であった。
　智瑜はステージ上から甘祥子と喜好親子を見つけ、笑顔で小さく手を振る。
「私が紹介する本は小学生の頃お母さんが買ってくれて今でもお部屋に置いてある絵本です。
　タイトルは『花ちゃんとふしぎなまち』。
　女の子が夏休みに不思議な町に迷い込んで街の人と触れ合いながら成長するお話です」
　智瑜は懐かしそうに表紙を見つめる。
　小さい頃を思い出した。幸せだったことを。今は亡き母のことを。
　すこし、しんみりする。
「この不思議な街の入り口は大きな鳥居。
　街のはずれに神社があってその間に家が並んでて人が住んでるんです。
　個性豊かな登場人物とストーリーに引き込まれます。
　少女は初めてその町に来たと思ってるけど街の人全員少女の事をよく知ってます。
　好きなケーキや歌も遊びも。
　少女はこれは夢だと思い始めて。
　沢山の人に触れ、少しずつ街に溶け込んでいきます」
　花ちゃんは触れ合ってゆく。
　その街の郵便屋さんと。花火職人と。植木屋のおかみさんと。
　その触れ合いを丁寧に描きながら、一方でミステリ的な要素もある。
「何故街の人が花ちゃんのことを知ってるのか徐々に明かされていくんですけど、１回読んだだけではすべてわからないんです。何回か読んで散りばめられた言葉の意味に気付けるんです」
　智瑜自身、何度も何度も繰り返し読んだのであろう。
　そして、その度に新たなことへの気づきがあったのだろう。
　例えば、ふとした一文が過去形で書かれている訳とか。
　例えば、呼びかけ方が一か所だけ違う訳とか。
　しかし、そこはこの場では明かさない。
　ネタバレ厳禁。
　本は自分のペースで物語の世界を味わうことが出来るのが、テレビや映画などとは違う素晴らしさなのだ。
　物語に秘められた真実は、自分で見つけることが楽しみだし、喜びでもある。
　そういうことをちゃんと智瑜は知っている。
「本当に……何度読んでも楽しめる少女の成長物語なんです」
　智瑜はそう言って締めくくった。
（伝わったかな）
　お辞儀をして顔を上げる。
　祥子と喜好が、素敵な紹介だったわね、というように、小さく手を振っていた。