ビブリオバトルッ！～文系異種格闘技戦～｜リアクション

ビブリオバトルッ！～文系異種格闘技戦～

● 水守流のオススメ『勝つための心得』

「ほうほう、おすすめの本を一冊か……別に小説じゃなくてもいいんだよな？」
　プログラミングやゲームに関して造詣が深い水守流は、ふむふむと頷き、登壇する。

「俺が勧める本は生ける伝説と呼ばれた格闘ゲーマー『猫原太吾』の書いたエッセイ『勝つための心得』だ。
あの猫原がゲームに勝つための心得を自身の体験談を混ぜて書いた一冊なんだが、これがなかなかに深い事を言ってるんだ」
　流曰く。
　猫原太吾は流が尊敬するプロゲーマーであるらしい。
「ゲームに勝つための心得と言う名目だが、内容はかなり哲学的で、読むとなんか向上心が湧いてくる気がする一冊なんだ。例えば――」
　と流はお気に入りのエピソードを引用する。
「ある日、猫原は対戦相手に、どうやったらそんなに強くなれるのかと聞かれたそうだ。そこで猫原がどう答えたかというとだな――『まず観察せよ』だったそうだ。勝てる人間というのは、瞬間瞬間の状況をよく観察している。すると、自分がどう立ち回ればいいかわかる、というんだな。逆に勝てない人間というのは、観察が足りていない。ゆえに自分がどう立ち回るのがベストかがわからないそうなんだ。これは非常に哲学的というか、人生にも同じことが言えると思わないか？　例えば俺が今嵌っている対戦シミュレーションでも同じことが言えて……」
　話は今熱くはまっているゲームの話にずれてゆく。
「……って感じで相手のフェイントを読むわけだ。つまりそれって猫原が言ってた『観察』だよな。
　この猫原だが、観察するためには観察という作業に耐えうる『冴えた自分』を作っていく必要がある、といってゲームだけでは飽き足らず実際に中国まで行って格闘技の修行をしたというエピソードもあってさ。結局そっちも師範になるくらいまで極めたそうだ。……そんな生き様にも痺れるよな」
　どうやら猫原氏、ゲーム界隈では有名な人物らしく、先ほどソフトウェアテストについて深く肯いていたスーツの男性集団が「やっぱり猫原は最高だぜ！」とぴゅうぴゅう口笛で応援している。
　猫原特有の超スティック捌きというのがあるらしく、そのジェスチャーまでしてくれている。
　くうう、と流は身震いすると、会場に向かって吼えた。
「そうだ！　目指せ猫原、超えろ猫原だぜ！　うおおお、燃えてきた！　このあと一緒にゲーセンで対戦してくれるゲーマー仲間求む！」