せんせいといっしょ：瓜山先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：瓜山先生編

　インドでは、書道が女性のたしなみの１つである。だからだろうか、お寺での写経体験で日本の書道に興味を持ったプリティヴィ・プラサードもこの作品展に参加していた。
　全長３ｍにもわたる作品で、日本語とヒンディー語の合いの子とも読めるような独創的なものであり、興味を引かれた人々が足を止めて、じっくりと作品に見入っている。
　書道家の中にはインドの書道に興味を惹かれて修行しに行った者もおり、懐かしそうに眺める者もいた。
（うん、インドのは経験があったけど日本のはずいぶん違って驚いたよ。でも、いい作品が出来たって自信はあるっ！）
　普段よりも明るく派手なサリーを纏い、アクセサリーもつけたプリティヴィが、作品の傍で胸を張っている。そのお陰か、興味を持った人たちがプリティヴィに解説を求めたり、直接感想を述べたりしてくれた。
「これがインドの……」
　作品のすみに、カタカナで名前が書かれており、プリティヴィがにっこりすると、タネはどっかで見た事のある女の子だなぁ、と首を傾げる。
「プリティヴィさんは、寝子高の１年生なんですよ」
「あ、なるほど。どこかですれ違っているかもしれませんね」
　メイの言葉に、ぽん、と手を打つタネ。２人はプリティヴィに作品を書いた感想を聞いてみる事にする。
「これ、とってもパワーが漲ってますね！」
「ありがとう！　でもね、インドではここまでダイナミックでフリーダムに書く機会はなかったんだよ」
　日本の書道、面白いね！　とプリティヴィがにっこりすると、タネもメイも嬉しくなる。プリティヴィは隣の作品を紹介しつつ、１つウインクする。
「向こうの書道では、これみたいにもっと細かく竹筆で書いて色とりどりでカラフルに書いたりするよ」
　彼女曰く、この作品は寝子島について書いているものらしく、これにも新鮮味を覚える２人だった。

「あれ？」
　ゲーム店にて新作乙女ゲームの予約を入れた帰り。羽生碧南はイベントスペースでメイの姿を見かけた。気になって入ってみると受付に御巫時子がいる。
「こんにちは。今、何をやっているの？　さっき瓜山先生がいたみたいだけど……」
「今日は、若手の書道家さんの作品展なんです」
　時子はそう言ってパンフレットを手渡してくれた。特に予定も無かった碧南はちょっとだけ見ていこうと足を踏み入れる。
　碧南自身は、書道は下手ではないが特別上手わけでもない。だが、以前、書道の授業で「字のバランスが非常にいい」と先生に褒められた事があった。
（そういえば、そんなこともあったかな）
　そんな事を思いながらゆっくりと見て行くと、プリティヴィとタネ、メイが作品を見ている所でちょうど出会った。
「先生、こんにちわっ！　これ、凄いなぁ……」
　あいさつもそこそこに、プリティヴィの作品に面食らう碧南。鮮やかな書き筋に、作者であるプリティヴィらしさを感じ、自然と笑顔になる。メイは笑顔で頷き、作品に瞳を細める
「そういえば、話に聞いた事がありますが、インド書道は厳格な書体のルールが幾つかあるそうですね」
　メイの言葉にプリティヴィは頷く。
「うん、そうだよ。あとヒンディー語よりアラビア語を使う事が多いの」
「ふ～ん、奥が深いんだねぇ」
　碧南は深く頷いて改めて作品を見、ため息をつく。自分の知らない世界がまだまだあるのだな、と思うとなんとなく楽しくなっていく。
　そんな様子の碧南に、メイはにっこり微笑みかける。
「気が向いたら、書道に振れてみてはいかがですか？　精神的な鍛錬にもなりますし」
「えっ？！　私ですか？」
　碧南はその言葉にまた面食らう。彼女は「ちょっと考えて見ます」と答え、不意に褒められた時のことを思い出すのだった。