結：ぴんきっしゅ警報発令中（？）寝子高校庭

　校舎のワックス掛けが進んでいく一方、校庭の掃除はというと……枯れ葉が絶え間なく降り続く為か、なかなか捗らない。しかも突風の所為でスカートが捲れるなどトラブルも多発していた。
　だが、森 蓮が出した提案がうまく行き、騒ぎは沈静化をみせはじめていた。
（この調子で、掃除が捗ればいいのですが……）
　蓮は安堵した様子で掃除をする。手際よくすすめていくうちに、少し心に余裕が持てた気がする。
「森くんのお陰で、悲鳴が聞こえなくなったわね」
「そう言われると照れますね」
　傍らで掃除をする芽森 菜々緒にそう言われ、蓮は慎ましやかな笑みを浮かべる。しかし、トラブルの種はまだ収まったわけではなかった……。

（折角集めた落ち葉なのになぁ……）
　千鳥 雅人は突風で散らかった枯れ葉をせっせと集めなおしていた。そうしながらも、ふと気になったのは先ほどから聞こえる女子の悲鳴。だが、何があったのかまったく分からない。　
（何かあったのかな？　……でも、悲鳴も減ったってことは、問題はなくなったのかな？　なら、お仕事続行しないと！）
　もらったビニール袋へと集めた落ち葉は早めにゴミ袋に詰める雅人。これを早めにあらかじめもっていくよう言われた場所へ持っていこう、と考えた。
「碧南ちゃん、そろそろ葉っぱを持っていこうと思うんだけど……」
　共に作業をしていた羽生 碧南に声をかけた雅人だったが、ここで彼女の様子が少しおかしい事に気づく。どこかにやついたり、「きゃ～！」と言いながら竹箒を抱きしめたりしている。雅人は困惑した。
　ここで少し時間を巻き戻してみる。雅人と反対方向を掃いていた碧南はというと、実のところ中々片付かない枯れ葉にうんざりしてきていた。
（なかなか片付かないなぁ。……ん？　そういえばこんなシチュエーションどっかで……）
　そう思いながら掃除する生徒たちを眺めていると、脳内に赤毛の男の子が現れた。現在あそんでいる乙女ゲーム『放課後シンデレラ～Still in Kiss～』に登場する攻略対象キャラクター、春希くんである。
　彼はサボリ魔で隙あらば学校をフケようとする問題児であり、ファンの間では「春くん」という愛称で親しまれている。彼のルートがちょうど校庭の枯れ葉掃除からスタートだったのだ。
（とにかく掃除を手伝わそうとするヒロインと春希くんの攻防戦の胸キュンシチュがすっごく可愛いんだよねっ！　「待てよ！」って言って服の裾を掴んだ時の反応とか！）
　因みにだが、春希ルートは既にベストエンド、ノーマルエンド共に攻略済み。今はヒロインと同じ部活に所属する、はんなりとした印象の理人先輩ルートを攻略中である。
（春希くんルートって、理人先輩の弟である真人くんも出てくるのよね。真人くんルートと春希くんルートの分岐点のダブル壁ドンは思わずテンションあがったなぁ！）
　思い出すだけで思わず興奮してしまう碧南。自然とにやけた表情になってしまい、こんな姿からは１年生ながら早くも木天蓼大学へのスポーツ推薦の話が来ている有力選手の面影はまったくない。ごく普通の女の子である。
　雅人が声をかけるも、次から次にでてくる妄想に黄色い声を上げる碧南には聞こえていない。
（そうそう！　不良に絡まれたとき飛び込んできて『こいつは俺のモンだ！』って抱えられちゃうんだよねーっ！　真人君はそれを見てヒロインの事をあきらめちゃうんだけど、その背中も哀愁があって～……ん？　真人くん？）
　不意に碧南はきょとん、とする。この真人くんという攻略対象キャラクターは、雅人にとても似ているのだ。しかし、少しずつ我に返り真っ赤になってしまう。
「ご、ごめんなさいっ！」
　同時に吹き荒れる風！　碧南のスカートは捲れ上がり、スポーティーなアイスブルーのショーツが露になる！
（なっ、なんでこんなときにゲームと同じシチュエーションになるの～～！？）
　真っ赤になってスカートを押さえる碧南。だが、その時雅人は風の所為ですっころび、持っていた袋の結び目は解け木の葉が舞っていた！
「ああっ？！　せっかく集めたのに～～～！！　中身が全部外にでちゃったあああ！」
　思わず涙目になる雅人だった。そして、碧南はというと、目が合った男子生徒を見て硬直する。
（見られてた……。春希くんに。ちがう、春希くん似の男子生徒に）
　暫くの間、立ち直れない碧南だった。

　灯 斗南と恵御納 夏朝は掃除をしつつも菜々緒を探していた。というのも、スパッツを渡すためである。
（今のトコ、変わった様子はねぇ、な）
　斗南は、以前別人のように振舞う夏朝と遭遇している。その謎に迫るべく一緒に掃除をしているわけなのだが……今のところ異変はないのだ。
「あ、芽森先輩発見。森くんと掃除しているねぇ」
　夏朝は、笑顔の彼女にほっとする。先日あった出来事が気がかりで、それとなく彼女の事を心配していたのだ。
「どうした？」
「ううん、なんでもない。さ、芽森先輩の所にいこう？」
　夏朝にそう言われ、斗南は１つ肯いた……その時。顔を上げたタイミングで強風が吹き、碧南のスカートが捲れてしまう瞬間を見てしまった。おまけに目まで合ってしまった。
（！　き、綺麗なアイスブルーと脚線美……って違う違う！）
　どうにか目を逸らす斗南。夏朝のスカートも捲れそうだったがこちらは斗南がいたお陰でぎりぎりセーフだった。
「……もしかして、見た？」
「いや、見てない」
「ならいいんだ」
　夏朝の問いかけにそっけなく即答する斗南。だが碧南のショーツと脚線美が頭から離れず悶々としてしまうのだった。