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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
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秋の夜の花占い
猫鳴館から懐中電灯を片手にやってきたのは綾辻 綾花。
飼い猫に留守を託して、幽霊だったらどうしようという気持ちを持ったままそわそわと野点傘に近づく。
触れた手にはしっとりとした傘の感触が伝わった。
「幽霊じゃ、ない」
ほっとしたように息をつくと、毛氈の上へと正座する。
三味線の女性に向き合う形で、礼儀正しく頭を下げた。
「こんばんは、綾辻 綾花って言います。あなたのお名前を聞いてもいいですか？」
綾花の言葉に、女性は僅かに首を振った。
答えたくない理由があるのだろうか。綾花は追及せずに相手の言葉を待つ。
『占のうてやろう。そなたの恋心を』
「恋の占いですか。でしたら、私はいつか、好きな人と恋人同士になれるでしょうか？」
女子高生らしい、純粋な質問を口にした後、少し考えるような仕草を見せて、質問を付け加える。
「私のこの気持ちは、恋ですよね？」
綾花の想い人もまた寝子島高校の教員である。
その名前は早川 珪。寝子島高校図書室を主とする、司書教員だった。
生徒と教師という間柄にあるふたり。
そのあいだに抱いた感情は、果たして恋か、それとも憧れか。
ちゃんとした“恋心”であってほしい。この気持ちを、憧れで終わらせたくない。
「こんなに好きになったのは初めてなんです。戸惑うことも、たくさん。そのすべてが、こんなに色鮮やかに映るのは初めてなんです」
綾花はそっと目を閉じ、その両手をぎゅっと握った。まるで、見えない気持ちを捕まえておくかのように。
「私はまだ子供だし、きっと好きな人にもまさかそんな気持ちで接しているなんて思われていないと思うんです。でも、だからと言って諦められるかって言われたら、ちょっと自信ないです」
柔らかな笑顔と共に、三味線の女性へと視線を向ける。
「あんまり欲張るのも良くないですよね」
『そなたは思慮深い』
三味線の女性の言葉を合図にするかのように、水盆に花が咲いた。
ふっくらとしたシルエットがかわいらしい。
『金魚草。花言葉は“予知”』
金魚の口に例えられるそのシルエットを目でなぞりながら、綾花はその言葉に耳を傾ける。
『そなたの性格を鑑みれば、焦って結論を求めるよりも、少しずつ気持ちを擦り合わせていく方がよかろう』
「これは、恋人同士になれるかどうか、という質問への答えですよね？」
綾花の問いに女性は僅かに頷く。
『未来への道はひとつではない。結論を急ぎすぎて、本来と違う姿を好いて欲しいというのなら、また答えも変わろう』
「予知っていうのは……？」
『人によって、特におなごは、進む先の結論がわかっていてもそれを否定しようとする者もおる。しかしそなたは違う。そなたは賢い。故に自然と先を知り、そしてそれに従うであろう』
「従える、でしょうか」
綾花は淋しそうな笑みを浮かべる。綾花も、普通の女の子なのだ。もし知ってしまった先が自分の望まない光景だとしたら。
その時は否定せずにきちんと受け入れられるだろうか。それとも、女性の言葉から外れて、みっともなく取り乱すのだろうか。
『花占い、とは先見とは違う。過ぎてきた時、今流れる時、先へ続く時。そのすべてを花を通して見つめることで、そなたに新しい視点を齎すもの』
水盆の上の金魚草がふわりと浮き、綾花の手の中に納まる。
『恋心、とは誰かに言われて育つものではない。そなたが己が内で育てていくものであろう』
「そう、ですよね」
誰かに認めてほしい、とか。誰かの言葉で真実にしてほしい、とか。
それは全て“責任転嫁”だ。
自分が恋だと思えば、どんなに小さな想いでも大きな恋心になる。
どんなに焦がれていても、こんなもの、と思ってしまえばそれは一気に灰になる。
綾花は自身の内側に燃える小さな灯が、いつか手におえないくらい大きくなることを確信する。
その灯になんという名をつけるのかは、今の綾花にもわからない。
「最後に、私と好きな人をお花にたとえると何になるのかを、聞いてみてもいいですか？」
女性は大した反応も見せずに、右手に持った撥をすいっと振り上げる。
すると、綾花の手の中にあった金魚草がはらりと崩れ、代わりに2種類の花がてのひらに咲いた。
その花を大事に仕舞い、綾花は山を下りる。
寮に戻ると、綾花はさっそくその花たちを小さなガラス瓶に挿した。
にゃあ、とすり寄ってきた猫の首筋を優しく撫でて、語りかける。
「今日は不思議な人に会ったんですよ」
不思議そうに見上げる猫に笑いかけ、窓際に置いた花に視線を向ける。
「ガーベラと、カトレア」
写真を照らし合わせて調べた花は、奇しくもふたりの誕生花で。
「私も、いつかは花と同じように寄り添って居たいですよ、先生」
窓の外では月が優しく見守っていた。
飼い猫に留守を託して、幽霊だったらどうしようという気持ちを持ったままそわそわと野点傘に近づく。
触れた手にはしっとりとした傘の感触が伝わった。
「幽霊じゃ、ない」
ほっとしたように息をつくと、毛氈の上へと正座する。
三味線の女性に向き合う形で、礼儀正しく頭を下げた。
「こんばんは、綾辻 綾花って言います。あなたのお名前を聞いてもいいですか？」
綾花の言葉に、女性は僅かに首を振った。
答えたくない理由があるのだろうか。綾花は追及せずに相手の言葉を待つ。
『占のうてやろう。そなたの恋心を』
「恋の占いですか。でしたら、私はいつか、好きな人と恋人同士になれるでしょうか？」
女子高生らしい、純粋な質問を口にした後、少し考えるような仕草を見せて、質問を付け加える。
「私のこの気持ちは、恋ですよね？」
綾花の想い人もまた寝子島高校の教員である。
その名前は早川 珪。寝子島高校図書室を主とする、司書教員だった。
生徒と教師という間柄にあるふたり。
そのあいだに抱いた感情は、果たして恋か、それとも憧れか。
ちゃんとした“恋心”であってほしい。この気持ちを、憧れで終わらせたくない。
「こんなに好きになったのは初めてなんです。戸惑うことも、たくさん。そのすべてが、こんなに色鮮やかに映るのは初めてなんです」
綾花はそっと目を閉じ、その両手をぎゅっと握った。まるで、見えない気持ちを捕まえておくかのように。
「私はまだ子供だし、きっと好きな人にもまさかそんな気持ちで接しているなんて思われていないと思うんです。でも、だからと言って諦められるかって言われたら、ちょっと自信ないです」
柔らかな笑顔と共に、三味線の女性へと視線を向ける。
「あんまり欲張るのも良くないですよね」
『そなたは思慮深い』
三味線の女性の言葉を合図にするかのように、水盆に花が咲いた。
ふっくらとしたシルエットがかわいらしい。
『金魚草。花言葉は“予知”』
金魚の口に例えられるそのシルエットを目でなぞりながら、綾花はその言葉に耳を傾ける。
『そなたの性格を鑑みれば、焦って結論を求めるよりも、少しずつ気持ちを擦り合わせていく方がよかろう』
「これは、恋人同士になれるかどうか、という質問への答えですよね？」
綾花の問いに女性は僅かに頷く。
『未来への道はひとつではない。結論を急ぎすぎて、本来と違う姿を好いて欲しいというのなら、また答えも変わろう』
「予知っていうのは……？」
『人によって、特におなごは、進む先の結論がわかっていてもそれを否定しようとする者もおる。しかしそなたは違う。そなたは賢い。故に自然と先を知り、そしてそれに従うであろう』
「従える、でしょうか」
綾花は淋しそうな笑みを浮かべる。綾花も、普通の女の子なのだ。もし知ってしまった先が自分の望まない光景だとしたら。
その時は否定せずにきちんと受け入れられるだろうか。それとも、女性の言葉から外れて、みっともなく取り乱すのだろうか。
『花占い、とは先見とは違う。過ぎてきた時、今流れる時、先へ続く時。そのすべてを花を通して見つめることで、そなたに新しい視点を齎すもの』
水盆の上の金魚草がふわりと浮き、綾花の手の中に納まる。
『恋心、とは誰かに言われて育つものではない。そなたが己が内で育てていくものであろう』
「そう、ですよね」
誰かに認めてほしい、とか。誰かの言葉で真実にしてほしい、とか。
それは全て“責任転嫁”だ。
自分が恋だと思えば、どんなに小さな想いでも大きな恋心になる。
どんなに焦がれていても、こんなもの、と思ってしまえばそれは一気に灰になる。
綾花は自身の内側に燃える小さな灯が、いつか手におえないくらい大きくなることを確信する。
その灯になんという名をつけるのかは、今の綾花にもわからない。
「最後に、私と好きな人をお花にたとえると何になるのかを、聞いてみてもいいですか？」
女性は大した反応も見せずに、右手に持った撥をすいっと振り上げる。
すると、綾花の手の中にあった金魚草がはらりと崩れ、代わりに2種類の花がてのひらに咲いた。
その花を大事に仕舞い、綾花は山を下りる。
寮に戻ると、綾花はさっそくその花たちを小さなガラス瓶に挿した。
にゃあ、とすり寄ってきた猫の首筋を優しく撫でて、語りかける。
「今日は不思議な人に会ったんですよ」
不思議そうに見上げる猫に笑いかけ、窓際に置いた花に視線を向ける。
「ガーベラと、カトレア」
写真を照らし合わせて調べた花は、奇しくもふたりの誕生花で。
「私も、いつかは花と同じように寄り添って居たいですよ、先生」
窓の外では月が優しく見守っていた。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2015年07月10日
- 参加申し込みの期限
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- 2015年07月17日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2015年07月17日 11時00分
