秋の夜の花占い｜リアクション

秋の夜の花占い

ざくり、ざくり。
力強い足音を立てて、新江天懸は九夜山を登ってきた。
日課のランニングの途中、聞こえてきた三味線の音に誘われて登ってきたのだ。
空を遮る野点傘に最初は驚いていたものの、水盆の前に座る女性に気付くとすぐさまそのそばに膝をついた。

「あんたみたいな綺麗な人が、なんでこんなところで泣いてんだ」
『悩み子よ、そなたの恋心を占のうてやろう』
「占い？悩みって言うなら今目の前にいる女性がどうしたら泣き止むのか、悩んでるぜ？」

軽口を叩きながらも、天懸は持っていた荷物の中から使っていないタオルを取り出し、女性へと差し出した。

「ほら」
『……』
「あーもう」

こらえきれないとばかりに天懸は手にしたタオルで半ば強引に女性の頬を拭う。
女性は、まっすぐに天懸の顔を見上げる。うっすらと涙の膜が張った女性の瞳に見つめられ、天懸は一瞬、目を逸らした。

「あーほら、人と話す時に相手が泣いてたら驚くだろ？俺は女性の涙は見たくない性分なんでな」

誤魔化すように頭を掻くと、視線を逸らした先に先ほど紫鶴が置いて行ったハンカチを見つけ、おもしろくないとばかりに眉を寄せた。

「あんたずっと人の恋愛話聞いてたのか。それって疲れないのか？」

応えない女性を見ながら、天懸は考える。
この寝子島に昔からいた、島の女性たちの恋心の集合体のようなものなのだろうか。
恋をすると女性は泣く。
嬉しくて泣き、悲しくて泣き、寂しくて泣き、愛おしくて泣く。
彼女の涙は果たしてどういう意味が込められているのか。

「なぁ、俺はあんたみたいな女性、結構好みだぜ？綺麗な目とか、そんだけ泣いてるってことは、感受性も豊かなんだろ」

天懸は毛氈のうえに横になると、女性の顔を見上げた。
女性も、僅かに視線を下ろして天懸の方を見ている。
相変わらず、頬は濡れていた。

「そうだな、俺はこんな夜の暗い中じゃなくて、明るい日光の下で、そんな泣き顔じゃなくて笑顔を見せてほしいと思うぜ」

そう言って目を閉じる。
天懸の瞼の裏に、色とりどりの花畑が広がった。

「あんたに、薔薇の花畑って言うのを見せてやりたいな。九夜山に咲く野茨じゃなくて、海外で咲いている色とりどりの薔薇。
きっとすごく綺麗だ。あんたも綺麗な人だから、きっと映えるだろうな」

べん、べべん――

女性が三味線を奏で始める。
天懸はその音色に耳を傾けながら、やがて静かに、寝息を立てはじめた。

『そなたは、錦木。花言葉は“危険な遊び”』

天懸が寝入った後、水盆に浮かんだのは真っ赤に色づいた葉。
秋になると色づく、落葉樹だった。

『あまり自身と心を傷つけるでないぞ。そなたの心は、ひとつしかないのだから』

天懸の髪を秋の夜風が揺らす。

三味線の音色が秋風にさらわれて行った。

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あとがき

担当マスター：時織椎
ファンレターはマスターページから！

まずは、大遅刻いたしましたことを皆様にお詫び申し上げます。
お待たせして、本当に申し訳ありません。
お待ちくださって、本当にありがとうございます。

―――

時織です。今回もご参加ありがとうございました。
秋の長夜に占いでも、という事でしたが。
所詮占いは占い。先へ踏み出すきっかけにでもしていただければ幸いです。

リアクション内で使いたかったけど使えなかった花言葉をいくつかご紹介いたします。

菊芋　「陰徳」「美徳」
(蒸かすと美味しいです)
キャベツ　「利益」
(冬はロールキャベツとか美味しいです)
サツマイモ　「乙女の純情」
(焼き芋の季節になりました)
茄子　「よい語らい」「優美」「希望」
(冬は田楽とかいいですよね)
松茸　「控えめ」
(食べたことないです)

それではまた、次のシナリオにて。
縁がございましたら、よろしくお願いいたします。

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