秋の夜の花占い｜リアクション

秋の夜の花占い

「あれぇ、秋の夜があずましくてろっこんで散歩にでも、なんて思ってたけど、これはまた不思議な人に会っちゃったねぇ」

ふわりふわりと毛氈の上に降り立ったのは澪乃澄佳。
ろっこん“空飛ぶ散歩のお時間です。”の力で夜の空中散歩としゃれ込んでいたところだろうか。
警戒心無く水盆の前に腰かけると、澄佳は興味深そうに毛氈や水盆を見回した。

『そなたの恋心を占のうてやろう』
「恋占い？そうだねぇ……」

のんびりとした動作で一瞬悩んだ素振りを見せる。
「面白そうかな」と呟いた後、澄佳は女性に向き直った。

「したら、ご質問です。あたしがもしお付き合いできるのなら、ちゃんとその人を喜ばせてあげれるかな？幸せにしてあげれるのかな」

頭に浮かぶのは、一時も忘れたことのない相手の顔。
一緒にお祭に行ったり、ボートに乗ったり、お出かけをしたり。
思い返せば返すほど、この気持ちは一方的なものではないような気がする。
もしかしたら、彼も自分と同じ思いなのかもしれない。
そうであれば嬉しいし、もう一歩進んだ関係になれるのなら、声にもならない歓声を上げるだろう。

「でも、本当にお付き合いできたとして、あたしはちゃんと彼の好きに応えられるのかなって、ちょっとだけ不安だな、って」

日暮れ時に見た、彼の真剣な表情を思い出す。
慌ててその場を離れてしまったけれど、いつかその表情が自分だけに向けられるときが来たとしたら。

「きっかけは事故だったけど、そこからどんどん惹かれていって、少しずつ少しずつ積み重なっていったこの気持ちに、ちゃんと名前を付けてあげなくちゃいけないな、って。
……あたし先輩なのに、どきどきして慌てちゃって、空回りすることもいっぱいあったから。そんな感じなのに、ちゃんとまっすぐ応えてあげられるかしら」

大切に育ててきた気持ちに花が咲けば、きっとこれ以上ない喜びだろう。
だけど、自分ばかりがはしゃいでいてはいけない。なによりこれ以上意識をして、今まで通り仲良くしていけるのだろうか。
今ふたりで遊ぶのはとても楽しい。もしかしたらこのままの方が良いのではないか。そんな囁きも脳裏を過る。

「彼の前でみったくないとこはみせたくないからね」

澄佳ははにかんだような笑顔を見せた。

「さ、教えてもらえるかい？」
『そなたの心、確かに預かった』

女性の言葉に呼応するように、水盆に朱と黄色の小柄な花が咲く。
澄佳は黄色の花を見て驚いたように目を見開いた。

「エゾノリュウセンカ！」

それは澄佳の故郷である北海道でもよく見られる花の一種で、湿度の多い場所に好んで咲いている。
ちなみに、若葉と若芽は食べるこもできるのだ。

『花言葉は“必ず来る幸福”。朱の方は金蓮花で、花言葉は“困難に打ち勝つ”』
「打ち勝てる、のかなあ」
『そなたが今まで育ててきたというその気持ちは、いずれ花を咲かすであろう。恋に関してのみならず、何事も根気強く積み重ねていくのがそなたの良いところのようだの」
「あ、ありがとうございます」

女性の言葉に反射的にぺこりと頭を下げる澄佳。
そして女性の言葉の続きを待つ。

『相手を喜ばすことができるか、であったな。そなたひとりで相手のことばかり見ておると、いずれ自分の立ち位置を見失いすれ違う。
常にふたりであることを意識せよ。相手のためばかりではない、相手と自分のために動けばよい』
「ふたりであること……」
『ひとりで悩むよりもふたりで悩む方が解決は早かろう』
「……わかりました」

そう言って澄佳は立ち上がる。

「あたしも、なにかしないとって緊張しているよりも、彼と自然体でずっといれたらいいなあって思うから。
始めのうちは上手くいかないかもしれないけどね」

空の月に向かって大きく背伸びをすると、澄佳は女性へとびっきりの笑顔を向けた。

「勇気づけられたよ、ありがとう！」

この後しばらくして、澄佳と想い人が一歩距離を縮める出来事があるのだが、それはまた別のおはなし。