秋の夜の花占い｜リアクション

秋の夜の花占い

好意、とは何も恋人になりたいというものだけではないと、美咲紀は思っている。
先ほどまで、修の部屋で勉強を見てもらっていた時も、勉強内容自体は手を抜かないのに、必ず甘いものを用意していてくれる。
それだけじゃなく、いろんな場面で、いろんなことで助けてもらっている。

「でも、知っちゃってるんです」

小さく呟いた言葉は隣に座る修には届かない。
修が、彼のクラスメイトのひとりを大切に思っていることも、知っている。
だから、恋人としての好意じゃない。
一緒に楽しく話していられる、相棒というポジションが、美咲紀にとって一番おさまりがいいのだ。

一方の修も、美咲紀に自分の好きな人のことはばれていないと思っていた。
先ほどの発言も、カマをかける意味合いだろうととらえている。
修の想い人は、修の気持ちを知っている。知っていてなお、今までと同じ距離を保っているのだ。
そんな相手に、頼られる人間でいたい。幸せを守りたい。
急ぎたくはない。少しずつ、関係を進めていけたらいい。そんな風に考えていた。

ふたりの心中を反映してかたまたまか、水盆には先ほどまでなかった２輪の花が浮かんでいた。

「薔薇の花か」
「綺麗ですね」

女性が撥をすうっと動かし、まず美咲紀を指す。

『橙の薔薇の花言葉は“信頼”そして“絆”』
「私が、橙の方ですか」
『いつ、というのは明言は出来ぬ。その先の未来はそなたの選択次第。
どのような、という問いには応えよう。そなたが心から信頼を置くことのできる相手であると。
それが具体的にどういう相手かは、そなたはもう知っておるはず』

そして今度は修へと撥を向ける。

『青い薔薇の花言葉は“奇跡”。その言葉をどう捉えるかはそなたの自由。
……たったひとりだけ、と思える相手に出会えるのは、奇跡のような確率だの』
「奇跡、か」

ふたりは２輪の薔薇を手に、九夜山を下り、再び修の自室へと戻ってきた。
薔薇の花が枯れないよう、綺麗な花瓶に挿して。

「シュー君は奇跡を体現したんですね」
「そう言うことになるのかな。ただ、元々青い薔薇は自生していなかったって知っているか？」
「もちろん！花のことなら詳しいですよ！」
「頼もしいな。じゃあ以前の青い薔薇の花言葉は知っているか？」
「えーと……」

小首を傾げて考え込む美咲紀に、修は笑いかける。

「“不可能”だったんだよ。品種改良に成功して、青い薔薇が存在するようになって花言葉が変わったんだ」
「そうなんですか？」
「ああ。だから、この薔薇の花言葉には、不可能を可能にする、強い意味も込められているんだ」

修は青い薔薇の花を優しく撫でる。
２輪の薔薇は、夜風に吹かれて僅かに花弁を揺らした。