ダンシングで人類愛な祭りの準備｜リアクション

ダンシングで人類愛な祭りの準備

【ダンシングで人類愛な生物部作戦会議〔総合展示篇〕】

　さて、ところ変わって、こちら生物部の部室では――。
「はい、みなさん、注目ーっ！　というわけで、今年も待望の文化祭――寝子祭の時期が近づいてきましたっ！」
　部長の屋敷野梢が、トレードマークの三つ編みのおさげ髪を揺らしながら、声高らかにそんな宣言をしていた。
「思えば、本年復活を果たしてから、私達生物部は山、海、川とたくさんの調査を行ってきました……！　そんな今までの努力の成果を発表して、生物の楽しさをみなさんに伝えましょー！」
　ぐるりと部員全員――といっても今日その場には彼女のほかに二人しかいなかったが――を見まわし、梢は生物部の作戦会議をスタートさせる。
「うーん、そうだなぁ。ボクとしては虫押しでいきたいところだけど、季節も季節だし、人も選ぶから展示ぐらいが妥当かな？　我が生物部の宝であるオオコクワガタの生体展示とパネルは鉄板として、あとは小動物との触れ合い＆餌やりスペースをつくるとか？」
　まず最初に発言したのは、本日の数少ない参加者の一人、新井すばるだった。彼は柔和な笑みを浮かべながら実験用のテーブルに置かれた三人分のビーカーに黒い液体を注ぐ。黒い液体はもちろん危険な薬品などではなくごく普通のコーヒーである。何故、ビーカーなのかはわからない。
「虫の展示と小動物にふれあい＆餌やりコーナーの案、いいわね」
　そう言ったのはもう一人の参加者、神野美野梨だった。すばるから受け取ったビーカーに入ったコーヒーを一口含みつつ、さらに彼女は言葉を続ける。
「ただ当日管理をする人が最低一人は必要だから、もう少し人数が欲しいところね……。生物部はほかの部との掛け持ちも多くて、どれだけ人が集まってくれるか未知数だから」
　美野梨の言葉に、梢も「ですねー」と頷く。
「部員個人の研究成果の発表スペースも用意したいと思ってますから、それでたくさん人手が集まればいいんですけどねー」
「いっそのこと生物部以外の人も引き込んでしまおうかしら？　生物室の扉は開け放しにしておきましょう。それで通りがかった生徒で急ぎでなさそうな人がいたら、私が声をかけてみるわ」
「うん、ボクもそれがいいと思うよ。ああ、いいよいいよ、神野さんは座ってて。扉ぐらいボクが開けてくるからさ」
　パチンとウインクしつつ、すばるはひょいと立ち上がって生物室の扉を開け放した。
　と、そこで、すばるはいつもよりも遥かに活気に満ちた放課後が廊下の向こうに広がっていることに気づく。
「祭りが近づいてきたんだねぇ」
　どこからともなく聞こえる他の寝子高生達の声もまたどこか浮き足立っていて、すばるは目を閉じて耳を澄ませ、少し感傷的な気分に浸る。
　しかし、そんなすばるの背中にすぐに部長の声が飛んでくる。
「新井くん。なにやってんですかー。会議はまだ続いてますよー？　あと立ってるついでにコーヒーおかわりくださーい」
「あ、私も貰ってもいいかな？」
「はいはい。お姫様方、仰せのままに」
　にこやかに苦笑しつつ、すばるはコーヒーポットを片手に席に戻る。

　そうして、生物部の作戦会議は続いていく。