＜宝石人形＞紅玉ルヴィア｜リアクション

＜宝石人形＞紅玉ルヴィア

　　【孤独】

「ルヴィア、貴女は捨てられたの！！」

　今まで──深く情報を集めるまでも無く、誰もが、口にしないと決めていた。
　知っていても、流された情報と常識で理解していても、絶対に、言ってはならないと思っていた。

　ルヴィアだけが、大きな瞳を瞬かせて……そして、笑い出す。
「ふ、ははっ！　美奈が私を見捨てる？
　──そんな事あるはず無いじゃない！！」

　「本当よ！　美奈は貴女が埃を被っている間に、私のように新しいお友達をたくさん増やして、昔の事なんか忘れていった！
　お生憎様。もう、ジャンクは用済みなの！！」

　ルヴィアが何を思うのか表情を歪めている間に、変身姿の風雲児轟がそちらに走る。
　その姿に常闇月が声を掛けて後ろに下がった。

「人形を置いてきます。人形で対処出来る相手ではありません。他の方にも通知してきます」
「ああ、任せた！」
　残された轟がネミッサへ駆け寄って、真偽を確かめるようにその瞳を見た。

「どうしてだ！　今それを言ったら──」

「だって！　ルヴィアを忘れていたミス妙寺の前で、ルヴィアには一体どんな事を伝えるつもり！？
　そちらの方が余りにも、より残酷ではなくて！？
　だったら、より一層言わなくちゃ……今、ルヴィアに納得させなきゃいけないと思うのだわ！」

　再び、先程からは想像もつかない──どこかで、認めたくない心からか、いきなりルヴィアはネミッサに右手から炎弾を撃ち出した。
　ネミッサは、とっさに事前に水で濡らしていた傘に身を潜めてそれらをかわそうとする。

　ルヴィアの手から離れた炎弾は雨となって、一斉にネミッサの傘を狙うように打ち据えた。
　幸いにして、一発の火力が低いのであろう。水と相殺し、奇跡的に傘に穴が開く事は無かったが、次に防ぐならばもう一度水を補給しなければならない。
　それでも、傘に痛み具合から、３度目が無いのは確実だった。

　ネミッサは単独でルヴィアと会うと決めてきた時から、他に水風船の用意をして来た。
　その水を使えば、この傘はもう一度使えるかも知れない。

　しかし、ネミッサはそれを身近となったルヴィアに思いっきり叩き付けた。
「──！？」
　ルヴィアの服と手は水でびしょ濡れになる。これで他の人を相手にしても、少しでも他の人への火の勢いが収まれば良いと信じて。

「……ルヴィア……」

　──自分は、ルヴィアを壊しに来たんじゃない。
　ただ、同じ境遇の自分と、並べただけ──

「……写真立ての美奈はもう、どこにもいないの。
　成長して、ミス妙寺は大人になった。写真立てに入っている貴女の美奈はもういない。

　残酷だけれども、これが真実
　お人形ごっこは、おしまい」

「そんな事……そんな事、あるはず無いじゃない。
　美奈は私が見守ってあげるの！！　ほら！　前より少し近くから美奈の気配がするわ！　きっと分かってくれたのよ！」

　身体を起こした二人は顔を青ざめた。
　一般人なら、ゆかりのある人形が周囲に炎を出しているだけでも逃げ出したくなるだろうに、更に何かあれば、ターゲットは妙寺美奈そのその人だ。
　こんな光景を目にしては、間違いなくルヴィアが望むような幸せな結末は訪れない。

　月が連絡をしてくれたのか、仲間が一気に集まってくる。
　その中に、三夜呼宵からの一報があった。

　“１時間後に寝子電スタジアムの近くのベンチで加奈さんと待ち合わせの約束を取り付けました。他の日は予定があると聞いたので、これが恐らく最後です”

　そんなに忙しそうな様子は見受けなかった美奈。恐らくこの事態そのものを重要視していないのだろう。
　だがそれでも、残り１時間。それまでにルヴィアを無力化させて、美奈に会わせなければならない。

　しかし、その結末は、誰にも分かりはしなかった。