ねこでんの１日。｜リアクション

ねこでんの１日。

　１２　帰り道

「なんか大人の街だったのだ～」
　鎌倉に行った後木真央は、ちょっとくたびれて座席に座っていた。自分が思っていたよりも鎌倉は物価が高く、カフェで落ち着こうと思っても人が多くて座れなかった。パンフレットに丸をつけた場所へは、何度か曲がり角を間違えて違う場所に行ってしまうし――
「しかし鎌倉にはしらすのゆるきゃらが居なかったのだ勝ちなのだ♪」
　愛知県出身であり漁民の子である真央は、鎌倉とのしらす勝負に愛知が勝ったような気がして邪な笑みを浮かべる。
（湾の状態とか似てると獲れるお魚も似るのだ？　みんなと調べてみても面白そうなのだ）
　興味はあるが、彼女は１人で調べものをするのは苦手だった。なので、友人を巻き込もうとこれからの計画を立ててみる。そして、みんなと予定を合わせてまた鎌倉に遊びに行くのだ。
（今度は、みんなと大仏に入ってけんちん汁を食べるツアーが面白そうなのだ）
　今度みんなと入ろうと我慢して、今日は大仏の中には入らなかったから。
　真央の膝の上には、お土産の饅頭の箱がいくつも入った紙袋が置かれている。
（明日部室に行ったら、みんなに配るのだ）
　にまにましながら、明日のことを考える。

　予定通りな観光にはならなかったけれど、それなりに楽しめたかもしれない。

♦♦

　母はどこかで生きている。
　そう信じて、劉瑞麗は鎌倉まで母を探しに行った。
　色んな人に、「るいりに似た女の人知りませんか」と尋ねたけれど、その誰もが首を振った。
　色んな所へ行って、沢山の人に聞いてみたけれど答えは同じだった。
　誰も、瑞麗の母を知らない。
　帰りのねこでんに乗った瑞麗は、しょんぼりと下を向いていた。
　くたくたになるまで歩いたから、足がとってもだるかった。
　電車の走る音が、静かな車内にがたん、ごとん、響いている。
　遅くなったから、この車両には誰もいなかった。瑞麗だけだ。
　寂しくなって、哀しくなって、瑞麗はぬいぐるみの好好をぎゅっと抱きしめる。

（……るいり、赤ちゃんじゃない）
　だから平気だ。へこたれない。
（まーまをさがすの諦めたら、どこかで待ってるまーまが可哀想。まーまは生きてるって信じてあげなきゃ……）
　そうは思うが、目には涙が溜まっていく。
　がまん、できなかった。
「う、うわああああああん……」
　がまんできずに、瑞麗は声を上げて泣きじゃくった。
　好好に、涙が染みていく。
　今だけ、泣いてもいい？
　誰も見てない。
　寝子島に着く頃には元気になって、ちゃんと「おかえりなさい」を言えるようになるから。
　だから、それまで……
「るいりが泣いたの、ナイショ。やくそく、好好」

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