ねこでんの１日。｜リアクション

ねこでんの１日。

　１１　彼を思う。

　規則的に揺れるねこでんの中で、御巫時子はうとうと、と眠りの気持ちよさに身を委ねていた。彼女の膝に置かれているのは、鎌倉にある和菓子屋の紙袋だ。知人である職人に頼んだ和菓子が完成したというので、それを取りに行った帰りだった。
　お土産の和菓子は、雪うさぎと雪ねこと雪とりの３種類。

　時子が知人にイメージを伝えて、オリジナルで作ってもらったものだ。お土産を受け取った後はろっこんの「鳥の囀り」の進化能力を使って鳥に変身し、空から街を見たり、近くを飛ぶ小鳥にお勧めの場所を案内してもらったり相談を聞いたりして交流をした。うとうとしながら、時子はその時の思い出を夢に見ていた。
　心地良いまどろみの中で、高い空を飛びながら街の景色を楽しみ、１１月の風を感じる。
　草の上で小鳥と喋り、雪うさぎ、雪ねこ、雪とりも一緒になって話をする。
　にぎやかに、楽しく、話を……
「ん……」
　ゆっくりと、時子は瞼を開けた。
　そこは電車の中。
　窓の外に目を向けると、夕日が地平線に沈もうとしていた。
（綺麗……）
　本当はもう少し鎌倉でのんびりするつもりだったのだが、帰る時間が来るのはあっという間だった。１１月ともなると、日が落ちるのは早い。
　座り直して、和菓子の箱が入った袋を見つめる。
　思うのは、五十嵐尚輝先生のこと。
　この和菓子は、明日、お弁当を作って持って行った時に彼に渡すつもりだった。
　もう一度、窓の外を見る。電車が寝子高前を通る時に校舎が見えるかもしれないから。五十嵐先生は、今日もきっと校舎にいる。
（……先生に、早く会いたいです……）
　休みの日も、彼のことを思ってしまう。
（学校がある日は、いつも会えますけど……）
　そう考えるだけで嬉しくなって、時子は１人頬を染める。
　向かいの窓から見える空の色が、少しずつ藍色に変わっていく。月の白が薄く光り、僅かに星が瞬きはじめる。明るいうちに帰るつもりだったのだが、星ヶ丘に着く頃には暗くなってしまうだろう。

「キョキョキョキョキョ」
「ヨタカさん！」
　駅に着いて外に出ると、ヨタカのヨタカさんが迎えに来ていた。
「有り難う御座います……」
　ろっこんを発動してお礼を言うと、ヨタカさんを肩に乗せて時子は歩き始める。
　月が本格的に輝き出したこの時間、月明かりに照らされて。
　今日の出来事をヨタカさんに話しながら、彼女は家路を辿っていった。

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