そっくりさんが来た｜リアクション

そっくりさんが来た

　高い午後の灯が、シーサイドタウンの軒下に複雑な陰を作る。
　その一隅で、青年は荷物を下し、空を見上げた。
　七音玲。２２歳。七雅麗音のそっくりさんである。
　麗音より若干背が高く、精悍な顔つきをしているが、傍目には違いがわからない。
　そして似ているのは、顔つきだけではない。
　自信に裏打ちされた高いコミュ力、音楽センスと情熱。そういった内面もよく似ていた。
（さぁて、今日の宿と、ライブ会場は、どこにすっかなぁ……）
　いろんな場所を旅し、路上ライブを繰り広げるシンガーソングライターの彼。
（この島、寝子島って言ったか……）
　休日ということもあって、あたりは観光客などでにぎわっている。
　向こうの駅前では何かのイベントをしていたか。
　妙に、皆がはしゃいでいる気がする。

　すると、人ごみの中から、ついと見覚えのある人影が現れた。
　玲の目が、すっと細くなる。
（おもしれぇ場所だぜ！）

　　※

「へー、七雅麗音……名前も似てるなあ！」
　喫茶店の一隅で、玲は彼のそっくりさんと対峙していた。
　はたから見れば、なかなか壮観である。
　女性顔負けの秀麗な美男子が、エッジな衣装をまとって、談笑している。
　しかも二人、鏡のようにそっくりである。
「レオって呼んでいいか？　俺はレイでいいからよ！」
　玲の申し出に、笑顔で頷く玲音。
　最初に逢った時はびっくりしたもの、持ち前のコミュニケーション能力と人懐っこさで打ち解け、すっかり旧知の仲のようだ。
「敬語とか堅苦しいの、苦手だからよ。年上とか関係なく、タメでいいぜ」苦笑交じりに言う玲。

　二人は話す。
　趣味のこと。互いの境遇のこと。
　初めて会ったというのが、ウソのようだ。

「俺は、歌が好きだ。シンガーソングライターだからな」
　シンガーソングライター！　玲音は目を輝かせる。
　今は自宅住まいだが、将来は彼女も歌で生きていきたいと考えていた。
「お、レオも好きなのか……俺たち、どこからどこまで似てるな……」
　にやりと二人、顔を見合わせて笑う。
「……よし、こんなのはどうだ……」指を建てる玲。
　頷く玲音。
「俺がこの島に来たのは路上ライブをするためだ。
　だから、これから二人で――路上ライブ、しようぜ」