そっくりさんが来た｜リアクション

そっくりさんが来た

　秋晴れの空に映える、深い濃紺の海。
　寝子電が突っ切ってくる。
　秋の気配が濃い。冬物を予備に持っておくかと、出がけに迷うような陽気である。
　この時期の島は紅葉に覆われ、観光として最適である。
　駅に到着した列車が、溜息のような音を漏らし、扉をあける。
　連絡橋には遠方のナンバーの車がいくつも行き過ぎる。
　
　だが、訪れた観光客の中には、本日妙な体験をすることになる者もいるのだ。
　
（正直、観光は面倒なのだけれど……）
　里見ゆいは眼鏡を直す。
　１７歳、本土出身。典型的なインドア派。
　休日は図書館にこもって本を読む。自分の世界に浸りきる。
　たまには出かけたらどう、と言われ、億劫ながら寝子島にやってきたのだが。
「そういえばこの島、来たことなかったなー。近いけど」
　自分の関心のある、本以外はまるきり興味のない彼女。
（駅前でなにか、イベントでもやっていないだろうか）
　そういって、広場まで降りていこうとすると……。
　
「あ、せれねちゃんだ！」
「すごい、せれねちゃん！」
「サイン！　サインして！」
「本物のアイドルだ！」

　わっ！
　いきなり人ごみに囲まれてしまった。
「ひ、人違いだっ！　私はあいどるではない……！」

　里見ゆい、夢宮瑠奈のそっくりさん。

「Excuse　me……？　シーサイドタウンはどこデスカ？」
　道に迷って、通行人に尋ねるマイク。
　本土留学中の大学生。日本大好きな日本オタク。
　日本のことなら、日本人より詳しいと自負する彼。
　だが、そんな彼でも予想不可能な事態が出来していた。
「なにふざけてるんだよ」笑いながら通り過ぎる学生。
「相変わらずクールなジョークね、レオン！」心得顔で手を振る女子。
　
（どういう事なのデショウ？）

　マイク・ジョーンズ、滝原レオンのそっくりさん。

「スコア更新を狙うの？　頑張ってね！」
　パンチングマシンの前でおどおどするのは、水島陽海。
　ゲームセンターで可愛いノベルティを探そうとしたら、急にいかついパンチングマシーンの前に引き出されてしまった。
　使い込まれた、頑丈そうなラバーのサンドバック。
　筋肉質の男性が、絵の中から陽海に笑いかける。
　期待と羨望の目が注がれる。
　オロオロする陽海。当然、こんなゲームやったことはない。
「ひ、人違いでは……」
　
　水島陽海。藤堂月乃のそっくりさん。
　
　――そう、本日の寝子島には、いたるところに『そっくりさん』が出没していたのだ。
　

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