そっくりさんが来た｜リアクション

そっくりさんが来た

「わっ！」
　羽生碧南は、曲がり角で人影をニアミスした。
　今日は碧南の愛する乙女ゲー画集の発売日。
　店から入荷の電話を待ちかねて、シーサイドタウンの本屋に一目散。
　なんだか騒がしいシーサイドタウンだが、構ってはいられない。
　画集の初回特典ＤＶＤもしっかり確認し、帰ろうとしての衝突である。

　曲がり角でぶつかるのは、乙女ゲーの定番イベントだ。
　だがこの時、彼女がぶつかった相手は、自分だった。

「ごめんなさい！」
　声をかけ、互いに「へ？」とすっとんきょうな声を上げる。
　うそ。なんで私がここにいるの？

　そうすると相手も「なんで、私がここに？」と慌てている。

　そっくりさん、というやつかもしれない。
　乙女ゲーなら、ここでイケメンがどなるなり、さわやかにパンツの柄をあてていくものだが、なかなか自分と衝突するゲームというのもない。
　いずれにせよ、自分で状況を進展させるしかない。

「立ち話もなんだから……喫茶店に行かない？」
　頷く彼女を連れて歩く碧南の脳裏に去来したのは、
「初回特典、もう一個もらえるんじゃないか？」という考えだった。