そっくりさんが来た｜リアクション

そっくりさんが来た

（ん？）妙な人影を認めて、河南得留は立ち止まる。
　猫相手に、猫型パペットで遊んでいる女がいる。
　初めて会ったはずの彼女には、しかし妙な見覚えがあった。
　ぴこぴこパペットで遊んでいた彼女は、こちらの姿に気づいて、すっと立ち上がる。
「あれ？　僕がもう一人？　……夏夜ちゃん？」

　ぼんやりした変な奴、というのが、恵御納夏朝に対する、河南得留の第一印象だった。
　あまり、家族や自分の周囲にいないタイプだ。

　 河南得留。本土在住の中学一年生。
　小ざっぱりしたシャツとズボン。髪を猫ピンで纏めている。
　周りの女子が騒ぐ顔立ちは、得留はあまり好きではない。
　もう少し、しゃんとしないと。
　年の離れた兄貴は、もう鉄道会社で、一人前として扱われている。
　姉もそれなりに頑張っている。
　そして今度は、妹だ。
　
　自分もしっかり、独り立ちしないと……。
　何かと思いつめた風になり、それが彼の顔立ちに、年に似合わぬ複雑な陰を作っていた。
　いろいろもの思う、多感なとしごろなのだ。
　
　ちなみに兄の名前は得螺。姉は得理である。
　妹の名前を尋ねたところ、母は笑って、予想通りの返答をした。
（……えれ、でも、いいけどね）
　この先、あと一人くらい兄弟が欲しいらしい。
　――名前、いったいどうするんだ？

（え……）
　
　得留の悩みは尽きないのだ。
　
（瓜二つな奴がいる……）
　何とも言い難い表情で、少女はこちらを見ていた。
（高校制服着てるのに、妙に子供っぽいし、変な奴）
　さっきもいきなり『かーや』とか呼ばれたし。

「……えみな・かーさ、です」

　唐突な自己紹介だ。
　
「あ、ボクは河南得留」
　慌てて返事をする。なんだか名前も、妙に似ているようだ。
　急に自分の名前が、謎めいた暗号じみて感じられる。
　
　沈黙が降りる。
　ええっと、なにか当たり障りのない質問を……。
　
「きょうだい、いるの？」かーや、って子？
　世間話のつもりだったが、急に夏朝の表情が曇る。
　眉に皺をよせ、深刻に悩み始める。何か事情がありそうだ。
「きょうだいは、いいや！」慌てて話題を変える得留。聡い彼、瞬時に空気を読む。

　――寝子島、おしえてくれないかな？
　――……。
　――この間、演劇祭やってたよね？
　――……。
　
　話題が続かない。兄弟の話というのは、彼女にとってそれほど深刻だったのか。
　
　ええと……彼女の手にはめられた、猫パペットに目が行く。
「猫、好きなの？」
「猫さん！」俄然、夏朝の顔に精気がよみがえる。「猫さん良いよね！」

　――どこまでも、変わった奴……。
　――いや、ボクも好きだけどさ、猫……。
　
　というわけで、よくわからない奴に連れられて、猫スポットに向かうことになった。
　子供っぽい女の子と、大人に背伸びする少年の、おかしな道行が始まる。
　

このページにイラストを設定する