【ハロウィン】寝子島ハロウィン☆デイズ！｜リアクション

【ハロウィン】寝子島ハロウィン☆デイズ！

　仮面をつけた途端、なんだか他人になった気分だ。
　自分だけじゃない。ここに来場している人すべてが、見知らぬ誰かに扮している。見知らぬ誰かとして、すれ違ったり出会ったり会話したり踊ったりしている。
　――誰だかわからないって、ワクワクするよね。
　空気に酔ったのかもしれない。見知らぬ世界に舞い込んだような気もする。なんだかこんな気分が一晩中続いて、ずっと眩暈（めまい）が続きそう。
　蜂矢時生はライオンになったような気持ちだ。あるいは、ライオンの姿がないかと怯えながら、スリリングな移動を続けるガゼルの気持ちか。ドキドキしながら彼は会場を往くのだ。
　それでは、誰か踊りに誘おう。

　音海なぎさは単身、会場を訪れていた。
　コンテストのときからしていたタキシードに、白骨のような半仮面をつけて彼の仮装は完成だ。

　颯爽たる装いだ。しかもミステリアスで、夜の空気によく映える。
　そんなに踊りはできないけれど、それでも、楽しんで帰ろうと思う。
　オレンジの光に目を細めつつ、その中に踏み込もうとしてなぎさは足を止めた。
「海……」
　会場の四方は鉄の手すりがしつらえてあって、そこから海を眺望することができるようだ。
　気が変わった。まずは海を見よう。

　かなり背伸びをした気分。
　周囲がみんな大人に見える。逆に自分は小学生になったように――いやそんなはずはないと、戌井創は首を振った。
　創はれっきとした高校生である。それだけではない。ちゃんと添木牡丹という年上の恋人がいるという、普通以上の高校生である。なにを気後れする必要があろうか。
　というはずなのだが、そのはずなのだが……。
　やっぱり、これだけアダルトな雰囲気の空間にいると、ちょっと身を小さくしてしまうのは事実だった。やはり若干15歳、そのあたりは仕方ない。
　創は爪と肉球のついたグローブを両手にはめ、『ろっこん』で犬耳と犬の尾を生やして犬少年に変身していた。アイマスクもちょっとふさふさ感のあるものを選んだので、遠目には誰だかわかりにくい。けれど見る人が見れば髪型や雰囲気で、すぐに彼だとわかる程度の扮装ではあった。
　なので待ち合わせ場所に現れた牡丹も、彼のことをすぐに見分けていた。
「フフッ、創君、待ちました？」
「あ……いえ」
　と言いかけて創は舌が止まった。
　見とれてしまったからだ、今夜の牡丹の装いに。

　全体的にいえば和風といえようか、着物をベースにした衣装であることは想像に難くない。けれども紫と白で統一されたそのコスチュームは、日本を舞台にした近未来ゲーム、それも海外製のゲームのような独特の感覚にあふれている。両の肩が鎖骨から胸元まで、しっかりと外に出た扮装、脚もいわゆる生脚が、しっかりと露出したデザインである。頭にはリボン状の飾りを配し、片手に扇子を下げていた。大胆だ。大胆すぎる、かもしれない。
「……あの、よく似合ってる……」
　創は視線のやりばに困った。
「ウフフ、創君もその姿似合っていますよ」
　と言って彼女は、白い狐のお面を被った。こうすると誰かわからなくなる。
「では、行きましょうか」
　言うや否、牡丹は創に手をさしのべた。
　創は慌ててグローブを外し、直接その手を握り返すのである。
　このとき創は牡丹を見上げる格好になっていた。自分はきっと、怯えた子犬のような目をしているのではないか――そんな気がした。創は、それを牡丹に気取れるのがいやだった。正確に言えば、怖かった。
　けれども牡丹はそんな彼の様子に気づいたのか気づいていないのか、ただ艶冶とした微笑を浮かべるばかりなのである。
「うふふ、創君との楽しい夜会ですもの。楽しまないといけませんよね♪」