寝子島３０００周年記念！｜リアクション

寝子島３０００周年記念！

「もちろん！」しおりは颯爽と答える。
「忘れてないよ!　あえて嬉しいな……久しぶり！」

　あの頃より、いくらか顔つきは大人っぽくなって。
　背も伸びて。
　それでも快活さ、明るさ、はつらつさは変わらず。

　しおりは、彼女の手を取る。
　３０００年分の懐かしさが、どっと胸にあふれてきた。

　ーー今は、寝子高の教師なの？
「青春と、関わり続けてるんだね！」

　それを見て、しおり同様、過去の記憶を保持する人たちが立ち尽くす。
　３０００年ぶりの、邂逅。
　現在と、なにも変わらない。

　そこから離れた、寝子島神社。
「空も、世界も違ってさー」戦いの中核から離れ、武道は刀と言葉を交わす。「あ、でも戦争とかの赤い空はもう勘弁だな！」
　刀は黙って頷く。彼は３０００年という時間を、まともに引き受けたらしい。
「……やっぱり、青空が一番好きだ」武道の一言には、重みがあった。

　刀は立ち上がる。行かなければならないところがある。
　武道は笑い、軽く手を挙げ、別れを告げる。次に会うのは何万年先か。ひょっとすると、永遠の別れかもしれなかった。

　そいて、落神神社に刀はいた。
　高い橡の林が、無数の影を落とす。
　小さな社に刀はそっと手を合わせる。
「よう、変わらないな」
　そっと振り返ると、そこには、いつもの少女。
「変わってない？」アホ毛をピンと揺らし、少女は笑う。
「変わってないよ。見た目やしゃべり方が変わっていても、大事な部分は変わっていない」
　刀の一言に、少女はくすぐったそうに笑う。
　何時も偽らず、真摯に思ったことを口にする彼。その彼の言葉は何よりうれしかった。
「少し驚いたけどね」そう言って、刀は目を彼方にやる。
「……」
「ありがとう」そっとつぶやく。「お前のおかげで、俺はかけがえのないものを得られた。いや、アホの子のお前に言っても仕方ないけどさ」
　そのかけがえのないものというのが、ろっこんのことなのか、それとも他のもののことなのか。
　３０００年分の重みを湛え、沈黙が神社にみちた。
　少女は照れたように笑って、つぶやいた。こちらこそ。
　

　バイオ桜並木の中には、冷静沈着そうな優等生の姿があった。
　緑の髪のはつらつとした少女、朝の修行でもしてきたか、クールな体育系の少年。
　どこか儚げな眼帯の少女がいて、バンダナを巻いた快活そうな少年のすがたがあった。
　ゴシックロリータの少女がいて、幽霊のような幼女もいた。

　その通行中の一同を、ちょっと高いところから見下ろす志波武道。
　ついに３０００年を閲した彼。

　鉱物のような肉体と、霊的な部分は、いまや着脱可能だ。
　何もかも忘れて、ただの観測者となっても、心の奥のメランコリィ、翳の部分は消えない。
　奇妙な罪悪の感情は、薄れることはなかった。

　登校中に、妙に世話焼きな兄と、鬱陶しいながらに嫌がる風でもない弟の姿を認めると、心が疼いた。
　あるいは、あれが自分の子孫なのかもしれない。
　例え違ったとしても、自分と同じ境遇で、自分のようなやり方で生きようと考えている者がいるなら、それはうれしいことだ。
　受け継ぐものがいるということ。

　何かを思い出そうとして、思い出せない。
　それでも、いつかは思い出せる日がくるだろう。
　そんな予感があった。

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